2019/9/20

パラレルセッションズ2019_特別インタビュー_2|川井操(セッション29)+勝亦優祐+丸山裕貴(セッション30)

2019
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今年で4回目を迎えるパラレルセッションズ。今回から導入されたセッションリーダー制を担う各リーダーへのインタビューを公開します。第2弾は滋賀県立大学助教でアジアの都市史を専門とする川井操さん、そして静岡と東京の2拠点で設計と物件運営までを手がける勝亦優祐+丸山裕貴の3人です。各テーマに込められた意図について、またパラレルセッションズに参加する理由などについて、今回も過去すべての回に参加してきた山田織部氏が聞き手として迫ります。


 

山田:今日はよろしくお願いいたします。スケジュールの関係で勝丸のお二人が途中から抜けてしまいますが、進めていきたいと思います。先に勝丸事務所の方から聞いていきたいと思いますが、今回、「デザインとオペレーションの相互フィードバックの可能性とは?」セッションテーマを設定されていますが、セッションでこのテーマを設定した背景などをご自身の現在の活動と合わせてお聞かせください。

勝亦:まあ、今、事務所では大きく分けて2つの仕事があって、1つは一般的なクライアントワークで、もう1つは自社で物件を借り上げたりとかして、企画の段階から物件を持って運営するまで行う、企画から運営まで行うプロジェクトも進めています。前者がクライアントや敷地や企画内容をこちら側で選べないのに対して、後者の方はそれらが全て決められるというのが大きな違いです。なんでそういうことをやっているかというと、以前のプロジェクトで設計以前の「このエリアのこの場所をこういうふうに動かしたら良いんじゃないか」というビジョンがあったとして、それを提案していても何も進まないというか、お金はどこから引っ張ってきて、どういう枠組みでやるのかとか、そういう部分に対する社会からの設計事務所に対する信用度ってあまりなくて(笑)。でもそうであれば自分たちで実験としてやってしまって、自分たちがやっているから同じようにやったらいいんじゃね?って感じで、ロールモデルを作ることで、他の人たちも安心してそういう企画の段階からできる。周りに波及させることができる。そういったところがこういうことをやっている経緯です。事務所としては後者の方に重点を置いていて、今回のテーマもそこから出てきたところがありますね。

山田:西日暮里のシェアハウスもそういうプロセスを経たプロジェクトとして位置づけられるという感じでしょうか?

勝亦:そうだね。さらにまあ、設計においては使い方を主体的に体験していくことで、そこから学びを得るというか。建築家が運営をやって、デザインとオペレーションを段階的にアップデートできるということができるというところがあって、シェアハウスのプロジェクトはそういう感じでやています。

山田:つまり、仮に「か、かた、かたち」という設計のプロセスがあったとして、その前段階の与条件をある種、設計しながらも、そのプロセスを経て出来上がった成果物を実際に自ら運営したり使ったりして、そこからフィードバックを得るというところが1つ特徴的ですよね?

丸山:まあやっぱり、運営していくと、時間軸を考えることになってきて、時間軸の中でどういうデザインをするかとか、フィードバックが得られたりとかってところから設計を考えるようになるというか。具体的に言うと、設計とオペレーションを同じ主体が行うことによって、イニシャルコストを落として、継続的に投資していくことができたりとか。なんかそうやって運営していって、ある種の時間軸を設計に取り込もうとしたときに、どうしてもお金の話になりがちだけれど、建築的にも葛藤があるはずで、セッションではそういったところを議論してみたいかな。既存の建築雑誌などのメディアで1つ上の世代が議論している部分とは少し違うところに取り組んでいるので、同世代でそういたところを議論してみたいってのもあるね。

川井:ちなみに、自社で運営されている物件って数はどれくらいあるんですか?

勝亦:東京に2つと、あとは静岡の富士市に1つ事務所が入っている物件があります。現在、事務所は2拠点あって、東京と静岡の方にありますね。

川井:ちなみにプログラムは?

勝亦:東京の方はシェアハウスで静岡の方は僕らの事務所も入っているのですがオフィスですね。

丸山:中には建築家の設計した物件をリノベーションしてシェアハウスにしていて、そういうところに住む機会はなかなかないので価値があると思っています。こういうプロジェクトも自ら企画するからできる部分もありますね。

勝亦:学生も住んで、エスキスしたり、代わりに工事を手伝ってもらったり。

川井:それは非常にいいですね。ある種、建築のコミュニティーを作っている。

勝亦:東京から、富士に大型のプリンターとかを使いに来たりする人もいたりしますね。笑

川井:なるほど。それは例えば、地方の建築を学びたい学生にとっても非常によさそうですね。今後、都市部と地方の経済的な差が開いてきたときに、地方の学生は都心に行きにくくなる。そういうときに地方にもそういう場所があるというのはすごい。

山田:なるほどです。こういった、ある種、教育者としての視点は僕にはなかったので、非常に発見がありますね。今回、川井さんと同時に行って良かったです。勝亦さん、丸山さんの取り組んでいる内容も非常によくわかりました。そうしましたら、次はこれまでパラレルセッションに参加してきたモチベーションといいますか、今回セッションリーダーの方々はこれまでの3回連続でパラレル・セッションに参加してきた方々で、続けて参加されるモチベーションみたいなものはいったいどういったものなのでしょうか?

勝亦:なるほど。不思議な質問ですね(笑)。どこまで言っていいのか分からないけれど、第一回目の当時、事務所ができたばかりで、
デザインとオペレーションのプロジェクトを始めた時期でもあって、そういったプロジェクトを一緒に進めていけるような仲間を求めて参加したところはあります。

山田:そうすると、ある種、戦略的に出会いを求めて参加したということでしょうか?

丸山:僕はそんなことないよ。

(一同):笑

山田:お二人、それぞれで異なるモチベーションがあるということですね?

丸山:たしかに、参加者が公開された段階で、「創造系不動産の人がいる!」とはなったよね。でも、それは事後的にあったもので、最初は議論する場所を求めていたというのが大きいかな。僕は工学院出身で、なかなか議論する場所がなかったのは参加のモチベーションになっているね。あとは若い世代で共感をベースに議論できるのが大きい。前提条件の説明を省いて議論できるんだけど、1つ上の世代とだとその説明からしないといけなくて、この違いは大きいんだよね。そういう同世代との議論の場が定期的にあるというのも重要かも。

勝亦:最初はそういうふうに参加して、そこで創造系不動産の佐竹さんと知り合うことができた。その出会いからプロジェクトが始まって、西日暮里のシェアハウスができたのはすごくよかった。

山田:それ以降の参加にモチベーションの変化はあったりしますか?

勝亦:事務所の活動が1年も経過すると変化してきて、今度はシェアハウスを実際に運営してみて、住んでくれる人を探すようになって。今住んでいる人たちはほとんどが建築関係の人たちなんだけれど、パラレルで出会った人もいますね。なぜ同業者を入れたいかというと、それによって同じ方向を向けるというか。もう少し広い範囲で社会に対して波及できる力が生まれるというか。

丸山:議論の場が運営している建築の中であるのはいいよね。

山田:継続的に新しい出会いを求めながら、そこで協働者を見つけ、先に進んでいる感じがしますね。なんだか、パラレルセッションと共に事務所が歩んでいるみたいです。

勝亦:あとはパラレルセッションの会場構成を行ったりもしたね。

川井:本当にパラレルセッションという場を存分に使っていますね笑

山田:では、これから参加される方々にメッセージといいますか、これまで参加してきた経験から伝えたいことなどありますか?

勝亦:メッセージかぁ。難しいね。でも、「建築は競争ではない」というのがあったけれど、協働できる仲間を見つけられるというのがパラレルの大きな魅力の1つでもあると思うし、「是非一緒に協働しましょう!」というのをメッセージとしてお伝えしたいですね。

山田:丸山さん、いかがでしょうか?

丸山:僕らを使ってもらう感じくらいでいいんじゃないかな。

勝亦:そうだね。

山田:ありがとうございます。じゃあ次は川井さんの方に聞いていきたいと思います。

勝亦:すみません!僕たちの方が、予定があって、川井さんのお話も聞きたかったのですが、ここで抜けさせてください。会場でまたお話できるのを楽しみにしています!

(勝亦さん、丸山さん、退出)

 

山田:では川井さんの方にいろいろお聞きしたいと思います。セッションで設定したテーマの背景や理由をこれまでのご自身の活動などと共に教えていただけますでしょうか?

川井:セッションテーマを決めるにあたって、2015年に日本建築学会WEB『建築討論』特集5「北京四合院に改修する、住む」が一つの背景としてありますhttps://www.aij.or.jp/jpn/touron/6gou/article_2.html)。具体的には北京には四合院という古い伝統住居が未だ都心部に面的に残っています。かつては四合院には高級官僚の邸宅や地方政府施設、寺院などとして使われていました。しかしながら、1950年代から現在まで、政治的動乱や自然災害、人口流入によって何十世帯も住むいわゆるスラム的な環境「大雑院」と言われる環境になってしまいました。一人あたりの居住面積は少ないですが、簡易な材料で中庭空間や上階への増築をおこない、とても雑多でユニークな環境になっています。そこの一角を建築家が介入して面白い改修をしています。ここ数年そうした建築家の改修実例や人々の住まいのリサーチを継続的に進めています。

 リノベーションというとどちらかというと西欧主導の印象がありますが、日本のみならず中国やその他のアジアでも新たなリノベーションの事例が非常に多くなっています。それについて議論や整理をする必要があるのではないかというのが今回のセッションテーマの大きな理由の1つですね。

 もう一つはアジアに特有の「移ろいの文化」についても考えてみたいです。アジアの多くは木造文化圏に属することもありますが、遊牧的な移動性、宗教の伝搬、災害的側面からでも非常に動産的に建築が作られてきたのではないかと考えます。例えば、タイの高床式住居は、頻繁に起こる洪水に対応して、部材同士を簡易なディテールで収められてあり、いつでも高さ調整が可能な建築です。木造にはそうした冗長性や軽さがあることも特徴的です。建築形式でも仏教の伝搬による仏塔形式の共通性、高床式住居の分布、交換可能な建築モデュールなど多くの共通した流動性と統一的状況下で捉えることが可能です。そうしたアジアの基層性についても考えてみたいです。

山田:川井さんは大学で教えていらっしゃると思うのですが、今回のテーマはそこでの内容でしたり、もしくは御自身の研究している対象との関連もあるのでしょうか?

川井:やはりこれまでの大きなプロジェクトの動きを求めて中国などのアジアに仕事を求めていた時代とは変わってきていて、それこそ2000年代に迫慶一郎さんらが中国に出てきた時とは状況がかなり違って、リノベーションの事例が非常に多いことがあります。日本でもリノベーションは多いですし、そこに西洋的なものとは異なったリノベーションがあるはずですし、その中でも日本のやり方というのもがアジアと比較する事で見えてくるのではないかという部分があります。

山田:アジアに焦点を当てている背景、非常によくわかりました。そこで新築ではなく、リノベーションに焦点を当てているというのはどういった背景がありますでしょうか?

川井:やはりこれまでの大きなプロジェクトの動きを求めて中国などのアジアに仕事を求めていた時代とは変わってきていて、それこそ2000年代に迫慶一郎さんらが中国に出てきた時とは状況がかなり違って、リノベーションの事例が非常に多いことがあります。日本でもリノベーションは多いですし、そこに西洋的なものとは異なったリノベーションがあるはずですし、その中でも日本のやり方というのもがアジアと比較する事で見えてくるのではないかという部分があります。

山田:では今回既に参加が決まっている方々もそういったアジアのリノベーションに関係がある方々を誘われているのでしょうか?

川井:今回お誘いしている方々の選び方にも実はそれぞれに理由があります。順番にご紹介しますと、池上碧さん(池上建築設計事務所)は「ZAO / standard architecture 標準営造」という中国の設計事務所で働いておられました。その事務所では北京大雑院のリノベーションを行なった「微雑院/Micro Zayuan」があります。その作品は、世界的にも評価されていれ、アアルト賞やアガカーン賞など多くの世界的な賞を受賞しています。彼はそこの主担当として経験してきたことを踏まえて、中国のリノベーションの現代性をお話しいただきたいと考えます。

 大井鉄也さん(大井鉄也建築設計事務所)は設計事務所を主催している一方、現在は東京大学の方でリノベーションに関する研究も行ってます。研究対象とされているのはリノベーションの事例の中でも比較的初期の方のもので、リノベーション事例の歴史的な整理も行なっています。北国街道木之本というところで町家の改修もされています(「木之本オフセット町家」)。今回は議論の土台となる日本のリノベーション史的なところと関連させながらお話し頂きたいと考えます。

 富永秀俊さん(香港大学)はこの中だと一番若くて、彼は今年の秋から香港大学大学院に進学しました。もともと東京藝大出身なんですが、藝大というとある種、日本での最先端の教育をやっているところだと思いますが、そこを出た彼が香港大学に行くという点が非常に興味深くて、これからの新しいアジア的価値観を持っている人として期待をしています。

山田:かなりバランスの良さそうな人選ですね笑。メンバーの話を聞いているだけでも当日のセッションが楽しみです。では、今度はこれまで川井さん自身がパラレルセッションに参加されてきたモチベーションについてお聞かせください。

川井:1つ大きいのはこのイベントを企画している辻さん、川勝さんには非常にお世話になっていています。彼らのやっていることに協力したいという気持ちがあります。その他に、それこそ山田さんや、去年だと谷繁さん、板坂さんといった、若くてエネルギーのある人達に会えるというのもパラレルに参加するモチベーションの1つかもしれないですね。

山田:なるほどです。では、このようにご自身がこれまで連続で参加されている経験から、今年の参加者の方々、あるいは参加を迷っている方々に向けて何かメッセージなどありますでしょうか?

川井:そうですね。それこそ大学院生くらいの若い世代の人に参加してほしい気持ちがありますね。加えて地方で大学教員をやっているということもあるので、地方の人たちにも参加してもらえるとうれしいですね。首都圏にいる同世代の人たちと会うことができるというのは、それだけで刺激になるはずですし、上の世代の人たちにも顔を覚えてもらえて、可愛がってもらえる。笑

山田:たしかに、可愛がってもらえるというのは非常に重要なことかもしれないですね(笑)。若い世代に期待しましょう。
では今日はありがとうございました。

 


勝亦 優祐
代表取締役|二級建築士
1987 静岡県富士市生まれ
2010 工学院大学工学部建築学科 卒業
2012 工学院大学大学院工学研究科建築学専攻 修了
2012 日建設計
2015-17 勝亦丸山建築計画事務所
2017- 株式会社勝亦丸山建築計画 設立

丸山 裕貴 
取締役
1987 埼玉県坂戸市生まれ
2010 工学院大学工学部建築学科 卒業
2012 工学院大学大学院工学研究科建築学専攻 修了
2012-16 株式会社KUS一級建築士事務所
2015-17 勝亦丸山建築計画事務所
2015-18 工学院大学建築学部客員研究員
2017- 株式会社勝亦丸山建築計画 設立

川井操
1980年生まれ。島根県出身。
2004年, 滋賀県立大学環境科学部環境建築デザイン学科卒業
2005-2006年 西安工程大学研究生
2007年, 大学院環境科学研究科博士前期課程修了
2010年,滋賀県立大学大学院環境科学研究科博士後期課程修了。博士(環境科学)
2011〜2013年,北京新領域創成城市建築設計咨詢有限責任公司(UAA)
2013〜2014年,東京理科大学工学部一部建築学科 助教
2014年〜滋賀県立大学環境科学部環境建築デザイン学科 助教
2018年より現職

山田織部
1989年沖縄生まれ。2013年琉球大学工学部環境建設工学科建築コース卒業。卒業後7年間、複数のアトリエ建築設計事務所、構造設計事務所、大手ゼネコン等に勤務と同時に、個人の設計活動をスタートさせる。2019年‐ 単身渡独。
[主な仕事] 下高井戸の学生寮の改修(2014)、麹町のオフィス改修(2019)、ほか。
[受賞歴] コロキウム形態創生コンテスト2013 優秀賞受賞、ほか。

 

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