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「パラレル・プロジェクションズで感じたこと」山梨知彦|日建設計

 

“都市や建築が抱える問題を解決するためのアルゴリズムは時代感覚として共有されているように思える。一方で、それぞれの若者がおかれた個別の環境により拾ってくるパラメーターが異なるため、同じアルゴリズムを共有していたとしても、個別のアウトプットである議論の中身が異なって見える、そんな状況なのかもしれない”

 

1日目2

・予定調和の排除

建築や都市に関わる30代の若者130人が一堂に会して、30年後の都市と建築に向けて議論する「パラレル・プロジェクションズ」というイベントに、「コメンテーターとして参加しませんか?」と声をかけていただいた。とりあえずスケジュールが空いていたこともあり引き受け、当日、状況が呑み込めないままに、会場に到着した。

どうやら僕の役回りは、10人ほどのグループに分けられた若者たちが話し合い、取りまとめた議論を聞き、コメントを返すイベント「セッション」の、コメンテーターでであることがおぼろげながら解ってきた。グループは、130人の若者達をそれぞれの関心のもとに13のグループにカテゴリーに分け、現代の都市や建築が抱える事柄を、既に幾度か集まり議論を交わしているらしい。僕は、その議論の輪に加わり、2世代上の長老としてコメントを返すのだ。6時間をかけ、5つのグループの議論を渡り歩き、コメントを返していくといった、トライアスロンのような場に投げ込まれていることに気が付いたのは、既に最初のグループの議論に加わった後であった。

こんなことを書くのは、主催者側の不備を突きたいからではない。このイベントが全く新しい試みであるから、私のみならず、130人の参加者も、そして主催者すらもが、イベントがどの方向に進んでいくのか見当もつかなくて当然だったのだ。あらかじめ計画された結論へと予定調和的に帰結させる意図が全くないということに、まずは新鮮さと好感を覚えた。

 

・明確ではないが、わかり易い議論

とはいえ、当初は長時間のイベントに、自分の好奇心が保てるか正直に言って自信がなかった。だが終わってみれば、あっという間の6時間。目の前で交わされた議論に次第に引き込まれ、楽しい時間を過ごすことが出来た。

繰り広げられた議論の特徴を言えば、「明確」の真逆を行くものであったこと。各グループの議論のどれもが、誰かが強力なリーダーシップを発揮することもなく、イーブンな中で議論されているためか、明確なかたちにまとめられてなどはいない。微妙にずれた意見が、焦点を曖昧にしつつ、投げ出された状態。それもそのはずで、参加者は、自分の事務所を構える建築家のみならず、組織事務所やゼネコンに所属する意匠設計者やエンジニア、デベロッパーに所属するプロジェクトマネージャ、そして大学の助手に至るまで、自発的にこの場に集まった多彩な顔ぶれで構成されている。加えて、自らの方法論を模索中であろう30代が集まっての議論である。意見が一つの焦点を結ぶはずもない。正直に言って、議論から数週間たった今となっては、個別のグループにおいて何を議論していたか、そのディテールを思い出すことはできない。

一方で面白いのが、個別の議論自体は、経験に基づくわかり易いものであったこと。議論は、焦点をぼかしつつも、明確ではないがわかり易く進められていた。

 

・計画よりも、絶え間ない軌道修正

それでは、全く意味をなさない議論であったかというと、そうではない。議論の背景にある時代感覚とでもいえるものが、逆に大きなうねりとなって130人の若者の間で共有されていたのではなかろうか。コンピュータープログラムの例えでいえば、都市や建築が抱える問題を解決するためのアルゴリズムは時代感覚として共有されているように思える。一方で、それぞれの若者がおかれた個別の環境により拾ってくるパラメーターが異なるため、同じアルゴリズムを共有していたとしても、個別のアウトプットである議論の中身が異なって見える、そんな状況なのかもしれない。

ここでの時代感覚は、モノや建築や都市を、ロングスパンにわたって計画し、それに向けてひたすら遂行することへの限界や疑問、とでもいったもののように僕は受け止めた。事実、30年後をにらんだ議論が設定されていたにもかかわらず、30年後のあるべき理想を明確に計画し、それに向けて力強く、ぶれなく物事を推進していくといった、20世紀的なパラダイムにおける計画論的な議論はほとんど見られなかった。むしろ30年後は見据えるものの、実際に都市や建築で起こっている事象に目を向け、それを30年後の姿に向けて絶え間なく軌道修正を加えつつ、時には30年後に目指す方法すら見直すことを辞さない、といったソフトで誘導的なモノづくりへの暗黙の了解が形成されつつあったように感じた。これは極めて意味深いことだと僕は思う。

 

・期待

パラダイムシフトを引き起こすような新たな時代感覚の覚醒は、領域を横断する人材によるグループの形成と、そのグループが仕掛けるイベントにより引き起こされるものかもしれない。その代表的な事例を挙げるとすれば、1950年代のイギリスにおけるインディペンデントグループから、彼らが仕掛けた「これが明日だ」展、そしてポップアートの隆盛へ続く一連の流れであろうか。恐らくは、同様なグループによる無数のイベントの試みの淘汰の結果、ポップアートが生まれたのであろう。新たなパラダイムの誕生に向けては、まず試みが必要なはずだ。

パラレル・プロジェクションズを機会に出会った有志たちが次なるイベントを画策して、建築や都市の新たな計画手法を切り開いてくれたら面白い、と期待している。

 

山梨 

【プロフィール】

山梨知彦(日建設計)
1984年東京芸術大学建築科卒業。1986年東京大学大学院修了。日建設計に入社。現在、常務執行役員、設計部門副総括、山梨グループ代表。建築設計の 実務を通して、環境建築やBIMやデジタルデザインの実践を行っているほか、木材会館などの設計を通じて、「都市建築における木材の復権」を提唱してい る。 代表作に「神保町シアタービル」「乃村工藝社」「木材会館」「ホキ美術館」「NBF大崎ビル(ソニーシティ大崎)」「三井住友銀行本店ビル」「ラゾーナ川 崎東芝ビル」ほか。 受賞 「Mipim Asia(木材会館)」、「日本建築大賞(ホキ美術館)」、「日本建築学会作品賞(NBF大崎ビル)」、「BCS賞(飯田橋ファーストビル、ホキ美術館、 木材会館、NBF大崎ビルにて受賞)」ほか。 書籍 「山梨式 名建築の条件」、「最高の環境建築をつくる方法」、「業界が一変する・BIM建設革命」、「プロ建築家になる勉強法」、「オフィスブッ ク」ほか。

 

写真:千葉 正人

2016

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