セッション30 – デザインとオペレーションの相互フィードバックの可能性とは? –

2019 サスティナビリティマネジメント場づくり

 

我々が取り組む「デザインオペレーション」は建築をデザインする” 設計” 事務所が運営までを行うプロジェクトである。設計監理契約では建設を前提としているが、デザインオペレーションは断続的な修繕を前提とする。現代日本においては、人口減少やデフレの長期化に伴い、スモールビジネスやスタートアップなどのプロジェクトが、地方・都市の建築ストックを成長過程の場として活用し、エリアに新たな文化や経済、雇用を作る可能性をもたらしている。このような状況の中で、建築家が場の運営に近い立場になった時、設計の与条件とはどのような枠組みで収集され、どこに向かっての条件となるのだろうか。設計と運営の間にどのようなフィードバックが可能かを模索したい。

セッションリーダー:勝亦優祐+丸山裕貴|勝亦丸山建築計画
登壇者:登壇者:加藤優一|公共R不動産、永井菜緒 |sway design、北本直裕+荒川佳大|UDS、横井創馬+小野志門+北川健太|セカイ、若林拓哉|ウミネコアーキ/つばめ舎建築設計パートナー、神永侑子|アキナイガーデン


 

【応答文1】
次にくるものを問う、その関わり方
(永井菜緒)

ビジネスは継続性を前提とする。
如何にリピートを促すか、市場をどう拡大させるかが企業の成長だとすれば、単発的な依頼が前提である設計業はどのように事業を構築すべきか。つくる行為を通じ「一生のお付き合い」は始まるものの、契約上の関係は引渡し時を業務完了とする。対価の対象期間は「設計~工事完了」までだ。

ここに問いを立て、顧客との関係性、提供する価値の範囲、報酬の得方などの手法を模索し、自ら実践しているメンバーが集まったのが、このセッションチームであった。テーマは「デザインとオペレーションの相互フィードバックの可能性とは?」。チームの構成メンバーは7組織11人。設計事務所、事業運営会社など、設計を主体としながら、その領域を広げ活動を行なっている面々である。各自の活動領域は、つくる前の段階「市場を選ぶこと」、つくった先の「運営そのもの」など多岐に渡る。また自身のテーマとしては、更にその先の「終え方=解体」を掲げた。

どのメンバーにも共通したものは、依頼者からの発注による請負型ではなく、自らサービスや場所そのものをつくり出していることだ。提供する技術の範囲を広げたことで、顧客との関係性や報酬の得方が長期に渡る。この「長期」という視点は、従来であれば建物の「耐久性」や「普遍性」といった建物のハード面を示す際に用いられていたように思う。

セッションでは、手法に対しての長期的視点が主体となったことが特徴的だった。市場を選ぶ段階では、今必要とされるもの、今後考えられる需給の変化を考え、設計以後の中長期事業計画にまで踏み込む。運営に関与することで、見えた事実を物理的な改修だけでなく、使われ方のルールなどソフト面へ反映させる。終え方に踏み込むことで、解体コストの支出だけでなく、今後も発生する税や土地の維持管理費用も含め、解体のその先を考える。

手段(建築行為)の目的化を防ぐ、と言ったところで、従来の設計管理契約という形での建築への関わり方には限界がある。状況を判断し、手段を柔軟に変えていくには、建築をつくるだけでなく、継続する関係の中で携わり方をも変えていく必要がある。

設計において、50年 100年先を見据えた計画をいくら綿密に立てても、不確定要素を全て網羅することはできない。予測をある程度盛り込んだ、可とも不可ともいえない曖昧なものを可能性の受け皿と呼び、良きものと誤魔化してはいないか。窮屈な枠組みを与えず、予測不可と濁すでもなく、包容し続けるための仕組みを考えること。実践し得た結果を踏まえ、改善を重ねること。改善を重ねるために、実施後にも関わり続ける契約の仕方を考え、価値提供者として継続的に必要とされる関係をつくること。スタンス上の「一生のお付き合い」ではない、事業として互いに継続可能な顧客との関係性を探り続けている。

永井菜緒
1985年生まれ、株式会社SWAY DESIGN 代表取締役。目的に対して最良な設計を未来への節度を持って行う、建築の設計監理事業「SWAY DESIGN」。社会の変化にあわせ 住まい方の選択肢を拡張する、不動産の企画調査事業「よいチョイス」。解体にまつわる問題を研究し実戦策を試みる、解体のコンサルタント及び実施事業「賛否、解体」を展開。


 

【応答文2】
どこまでが建築家の職能か? ー建築的実践としての企画・運営ー
(加藤優一)

職能の拡張/2019年のパラレルセッションズ
職能の拡張の話になると「仕事が少なくなったから」と片付けられることがあった。また、運営を担うことに対しても「設計の解像度が上がる」という以上に議論が深まりにくかったように思う。もちろんそれも1つの背景だし、そういった理由で取り組む人もいるだろう。しかし、当セッションの参加者は、設計以外の職能をより能動的に扱っていた。

リサーチ・コンサル・不動産事業など、建築の条件設計から関わる人。ビジネスモデルや生産・施工プロセスなど、建築のつくり方を変える人。メディアやサービス、プラットフォームの構築により、建築の対象を広げる人。場の運営や地域での活動に関わりながら、継続的に建築を育てる人。それぞれの目的に応じ、建築の手法として職能を拡張していた。

私自身も、時に実践者として(株式会社 銭湯ぐらし・一般社団法人 最上のくらし舎)、時に計画者として(株式会社 OpenA・公共R不動産)、建築の企画・設計・運営に関わっている。本稿では、【1】設計以外の職能に関心を持つ世代的な背景を振り返りつつ、【2】実践者として関わる事例「小杉湯となり(銭湯つきシェアスペース)」【3】計画者として関わる事例「SAGA FURUYU CAMP(一括受注による廃校再生)」を紹介しながら、建築の企画・運営に関わる可能性を考える。

【1】世代的背景 切断を編み直す/東日本大震災の経験から
私が生まれたのは1987年。1995年に阪神淡路大震災、2001年に同時多発テロ、そして2011年に東日本大震災を見てきた。歴史を重ねてきた街が消え去り、あって当たり前だった生活基盤が揺らぐ瞬間。防衛が強固になり、人々の暮らしとは別の理論で都市が整備されていく様子。建築と時間、建築と人が切断されるような出来事をこの目で見てきた。同世代の人にはこれらを編み直したい、という意識があるように思う。

建築の可能性を見たのも東日本大震災の復興であった。印象的なのは、復興支援ネットワークArchi-Aidをはじめとする現地での活動だ。被災した集落の人に耳を傾け、環境に目を凝らし、生態系を読み解く。アウトプットは設計に限らず、建築と産業の一体的な提案、地域資源を活用した生産プロセスの提案、現地に拠点を構え活動する人も居た。

そして、この動きは被災地に限ったことではない。複雑化する社会課題に対する建築的手法として、アプローチは多様化し、その射程は広がっている。例えば、精緻なリサーチから空間を立ち上げる「tomito architecture」、浜松を拠点を構え、建築の構成要素と向き合いながら都市をつくる 「403architecture[dajiba]」、事務所にシンクタンクを設け、様々な条件を空間に昇華させる「ツバメアーキテクツ」、木賃の改修アイデアをオープンソース化することで、社会課題を解決する「モクチン企画」、建築の民主化を掲げ、デジタルファブリケーションにより産業自体の変革を目指す 「VUILD」など。ふたまわり上の世代が、既存の都市に可能性を見出し、ひとまわり上の世代が、新しい建築の図式を発明してきたのに対し、我々の世代は、建築が成り立つ生態系やビジネス、システム自体を再構築しようとしているのかもしれない。

さて、私も震災後に特殊な経験をしている。2012年より大学に所属しながら被災自治体に席を置き、行政組織と計画プロセスの研究に従事した。そこで学んだことは、組織の持ち方で、計画の進め方は変化し、引いては環境形成に影響を与えることだった。また、その後「CREATIVE LOCAL」という本を執筆することになり、海外の地域再生事例をリサーチした経験も大きい。イタリアのアルベルゴディフーゾやドイツのハウスプロジェクト、イギリスのアッセンブルによる活動など様々な事例を見てきたが、ここでもプロジェクトに関わる組織やプロセスの作り方が、風景に現れていることに気づいた(※1)。

建築をつくる前後のプロセス(時間)と実践する組織(人)を設計の対象にすることでアウトプット(建築)が変わる。時には当事者として、その場に身を置きながら実現できる風景がある。それらを総合的にまとめ上げる職能を、建築的実践と捉えるようになった。今回はその実践の中から、当事者として関わった事例と、計画者として関わった事例を紹介したい。

【2】当事者として関わる 小杉湯となり/銭湯ぐらし
小杉湯となりは、東京都高円寺にある老舗銭湯「小杉湯」の隣にある、銭湯つきシェアスペースだ(※2)。ことの始まりは2017年3月、この場所には1年後に解体予定の風呂なしアパートがあり、小杉湯に通っていた縁で解体までの活用を担うことになった。

実施したプロジェクトは、銭湯好きのメンバー10人を集めて、実際にアパートに住みながら、活用可能性を探るというもの。そこで学んだ「銭湯のある暮らし」の豊かさを、より多くの人に伝えたいと思い、小杉湯となりを企画して、運営を任せてもらうことになった。以降、設計・運営・組織についても、銭湯の価値を再解釈することで方針を決めていった。

設計面では、銭湯の持続可能性を参考にした。小杉湯は創業以来、大きな越屋根が架かる空間構成は守りつつ、浴室や待合室は増改築を繰り返すこと時代やニーズに応えてきた。本建築でもその構成に習い、変わらない空間を「上空」・変わり続ける空間を「地上」と定義して、設計者の役割を2つに分けることにした。「地上」は私たちが担当し、実体験に基づく企画と運営を見据えたプランニングを行い、「上空」は設計事務所T/H(明快な構成が得意な塚事務所出身の建築ユニット)に依頼し、天井面から柔らかい光や風を取り入れる設計を練り上げた。他にも銭湯の特徴として、言葉を交わさなくても人の気配を感じる空間構成があることに着目し、場を介したコミュニケーションが可能な設計としている。

運営面で参考したのは、利用者の主体性だ。銭湯では浴室にスタッフが居ない分、常連や利用者同士が気を配り合うことで、居心地が保たれている。小杉湯となりは、2020年3月に飲食店としてオープンしたが、緊急事態宣言を受けて、会員制に切り替えるという判断をした。場を閉じる葛藤はあったが、会員を銭湯で言う常連と捉え、コロナ禍においては顔の見える関係性を作り、それを徐々に広げていくという考え方だ。

現在、約60名の会員が月額2万円で利用している。リモートワーク環境が欲しい人もいれば、家族と同居しており自分だけの居場所が欲しい人など、現状の住宅が対応できていないニーズに応えている。最近では、会員以外の人が利用できる時間や企画を設け、少しずつ開かれた場になっている。

組織面では、20歳から80歳まで約40人の運営メンバーがおり、銭湯のように老若男女が関わっている。役割・コミット・モチベーション・報酬のあり方はそれぞれで、ライフステージに応じて関われるプラットフォームとしての法人を目指している。2021年4月には、近所に空き家をお持ちの方が加わり、サテライトスペースが誕生するなど、面的な広がりも見せている。今後も、銭湯が街のお風呂であるように、家の機能を街に分散できる選択肢を増やしていく予定だ。

このように、オープン直後のパンデミックという危機的状況だったが、企画・設計・運営に関わることで、コンセプトを守りながら新しい場のあり方を見出すことができた。現在、山形でも同様の活動を進めており(万場町のくらし/最上のくらし舎:※3)、地域資源を活用して人的・空間的ネットワークを広げていく手法の展開可能性を模索している。

【3】計画者として関わる SAGA FURUYU CAMP/OpenA
続いて、設計事務所OpenAで担当した公共案件だ。同事務所は設計を軸にしながら、不動産メディア等で建築の領域を拡張してきたが、最近では公共施設の設計から運営まで関わることが増えてきた。本事例は佐賀県の古湯温泉にある廃校を、宿泊施設・サテライトオフィス・地域交流拠点に改修したプロジェクトだ(※4)。市が、構想・設計・運営を一括で担う事業者を公募し、OpenAと地元のIT企業(EWM)の共同企業体が受託した。設計者が直接運営する訳ではないが、チームで取り組むことで企画・設計・運営それぞれにメリットがある形での連携が可能になっている。

まず、構想フェーズでは、公民連携の視点から、実現性の高い事業計画を策定し、住民との合意形成を進めた。次に、設計フェーズでは、構想を土台に、運営を見据えた設計や、A~C工事の一体的な検討が実現できた。そして運営フェーズでは、利用イメージを事前に調整できたことでスムーズに運営を始めることができ、その後も空間の更新に関わり続けている。また本事例では、設計者が事業者として関わることで、与条件からマネタイズのポイントまで設計の対象にあったことが1つの特徴と言えよう。

これまで公共発注は分離発注が基本であり、統合されるフェーズも設計・施工が一般的だった。もちろん分離発注が相応しい場合も多く、公共性や専門性が高い案件では、フェーズごとに質の管理や関係者の合意が必要になる。一方で、次のフェーズに責任が無いことで、中身のない構想や運営しづらい設計になってしまうこともある。公共事業でもリノベーションや小規模な事業が増えており、運営者が責任を持って進めるべき案件は多くなるだろう。

なお一括発注方式としては、近年PFI方式が有名したが、ノウハウを持つ大企業が参加できる事業は限られるため、今回のような地方都市の改修案件においては、構想・設計・運営の一括発注(VDO方式)が1つの可能性になると考えている。詳しくは、公共R不動産で発行している「公募要項作成ガイドブック(※5)」に整理しているが、事業の創造性を高める発注が成されるためにも、発注方式や募集要項がデザインの対象であるという認識が広がることを期待したい。

上記の事例は直接運営に関与する形だったが、運営への関わり方は様々だ。例えば「江北町 みんなの公園(※6)」という事例では、設計に加えて運営者選定とスキーム構築まで並走することで、運営者との連携を図った。「城内エリアリノベーション(※7)」という事例では、運営体制と建築空間を一体的にデザインすることで、縦割行政の弊害を乗り越えている。運営を見据えた設計は時代の要請であるとともに、新しいプログラムやデザインが発現しうる可能性を秘めている。プロポーザルでも、運営に対する提案が求められるようになったが、役割や分野を横断することで、新しい建築が生まれていくだろう。

二項対立を乗り越える
地域のプロジェクトに関わると「ハードとソフトどちらを大事にするか」という話を聞くことがある。様々な背景があるが、コミュニティデザイナー(建てない選択肢)やリノベーションまちづくり(投資回収を見据えた改修)が普及したことも1つの理由だろう。

もちろん、ハードに頼りすぎてはいけない。まちを歩くと、運用が考えられていないハコモノや、みんなに開こうとした結果、誰にも使われないパブリックスペースが散見される。利用者に使い方をゆだねる建築も必要だが、そんなに強い人間ばかりではない。

同時に、ソフトと言われるものに期待しすぎてもいけない。コミュニティが定着するには拠り所が必要だし、運営を第一に考えたリノベーションでも、空間的な豊かさが欠けていては、事業自体に影響する。ハードとソフトどちらかではなく、どちらも必要なのだ。そんな当たり前のことを見失わないためにも、建築を時間の中で捉えることが大切であろう。

「デザインとオペレーションの相互フィードバックは可能か?」この問いは、建築が扱う対象の広さと可能性、人や時間を内包する建築の本質について考えるヒントを与えてくれる。

※1 CREATIVE LOCAL/エリアリノベーション海外編
https://book.gakugei-pub.co.jp/gakugei-book/9784761526665/
※2 小杉湯となり
https://data.shinkenchiku.online/articles/SK_2020_05_120-0
※3 万場町のくらし
http://nokurasi.site/
※4 SAGA FURUYU CAMP/旧富士小学校の再生
https://www.open-a.co.jp/works/6770/
※5 クリエイティブな公共発注のための『公募要項作成ガイドブック』
https://www.realpublicestate.jp/book/pppmousouken/
※6 佐賀城内エリアリノベーション
https://data.shinkenchiku.online/articles/SK_2020_07_092-0
※7 江北町みんなの公園
https://data.shinkenchiku.online/articles/SK_2021_07_142-0/

加藤優一
(株)銭湯ぐらし代表取締役/(社)最上のくらし舎代表理事/OpenA・公共R不動産。1987年生まれ。東北大学博士課程満期退学。建築・都市の企画・設計・運営・執筆等を通して、地方都市や公共空間の再生に携わる。

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