Session24 -コミュニティとテクトニクスの有効な関係とは?-

2018 制度材料生産自発性

日時:2018/10/21 15:00~18:00
会場:建築会館ホール
テーマ: コミュニティとテクトニクスの有効な関係とは?
登壇者:谷繁玲央(東京大学大学院工学系研究科建築学専攻)、横井創馬・北川健太・小野志門  (セカイ)、板坂留五
岡山俊介(金箱構造設計事務所)、水野茂朋(mizuno.design)、山田織部、森 元気(森元気建築設計事務所)


 

【応答文1】
地域に根ざすテクトニクス
(谷繁玲央)

3年前パラレルセッションズに参加した時には自らのプレファブ住宅の構法研究を活用して、実際の改修につなげていきたいという実践への関心が強かった。今でもその目標は諦めていない。しかし、直ちに実践を始めるには法制度や生産システムの障壁が大きいと感じ、そのままプレファブ住宅の構法史の研究を深めようと博士課程に進学した。なので「コミュニティとテクトニクスの有効な関係とは?」という問いに3年間の自らの実践を通して答えることは難しい。ただ、構法史を研究していることではじめて答えられる内容もあるかもしれない。

コミュニティとテクトニクスという二項はおそらくツバメアーキテクツの山道さんが提唱するソーシャルテクトニクスという言葉からインスピレーションを受けたものだろう。コミュニティは東日本大震災以降の日本の建築界で盛んに議論された建築の非物的な問題で、テクトニクスは近年の(正確にはフランプトンの『テクトニック・カルチャー』受容等の)構法などの建築の物的な問題への再評価の流れを受けている。このセッションの問いも、ソーシャルテクトニクスの語も、建築のソフトとハードをつなげる文法を探究している。

しかしながら、本来は構法やテクトニクスと呼ばれるものがコミュニティや社会から独立して存在するものではない。近代以降にプレファブリケーションなどの工業化を経て、地域の共同体や文化から建築の作り方が遊離してしまった。社会全体で建築を増やしていかなければならない時代ではその遊離は合理的な選択である。一方で、社会が縮退し建築が余る時代に入れば、建築の修繕能力がない地域は急速に衰退していくだろう。そうした危機に対する最もシンプルな解決法は地域に結びついた生産のあり方を回復することだろうと思う。

先日北千住で活動する建築家Ishimura+Neichiのオフィスがある「Senju Motomachi Souko」を見学した。(その様子は僕が共同主宰するメニカンというメディアで記事にする予定) 名前にもsouko(倉庫)とあるが、オフィスというよりものづくりの場という印象が強く、随所に彼らが足立区の職人たちとコラボレーションする中で生まれた発明が見られる。ここでは北千住を中心とするコミュニティと、建築の新しい作り方がごく自然につながっている。これはひとえに建築家が地域の職人たちとの対話を大事にしていることによる。Ishimura+Neichiの仕事を垣間見たいま、コミュニティとテクトニクスの二項を分けること自体がナンセンスな気すらしてくる。これからの地域に根ざした建築生産を考えるときに、街場の職人たちの存在は不可欠で、また彼らと対話しながら建築にまとめ上げていく仕事も建築家の新たな役割になるだろう。


谷繁玲央

1994年愛知県岡崎市出身。2018年東京大学工学部建築学科卒業(隈研吾研究室)。2020年同大学大学院工学系研究科建築学専攻修了(権藤智之研究室)。現在は同研究室博士課程で住宅メーカーの歴史を研究している。専門は建築構法と建築理論。


 

【応答文2】
人々の物語や時間をとりあつかう
(セカイ/SEKAI)

2018年当時、セカイは「聖蹟桜ヶ丘の曳家」「建築の葬式」という作品を終え、辻琢磨さんの誘いを受けてパラレルセッション2018に参加した。課題は「コミュニティとテクトニクスの有効な関係とは?」という題目であった。

「聖蹟桜ヶ丘の曳家」は既存の住宅を二つに分節し、家の半分を地域の人々や施主、施主の親族達と曳家することで、中庭を作るという作品である。かつて茅葺き屋根をかける際に街中の人々に協力しもらうような風景を現代に作り出せないかという発想があった。

「建築の葬式」は日本大学理工学部5号館の解体を巡り、保存でも改修でもない回答として“葬式”をあげるというものである。学生やアーティストが様々なインスタレーションを行い、何度も勉強会を行うことで、日本大学の卒業生が最後の5号館に触れに日本中から集まった。

私たちの取り組みの中で重要と考えているのが、建築と人との物語のある関係である。建築は人と長い時間を共有する媒体となり、特定の人にとってはとても愛着深いものとなる。この議論は既存建物がもたらすものだけではなく、新築の際、未来に投げかけた時間も同様であると考えている。

セカイは今「東京型家」というプロジェクトを進行している。木造家屋の周りにコンクリートを打設し、内部の建物を解体して型を取るというプロジェクトだ。既存建物の記憶を全く別の素材に転写して未来へと繋ごうとする作品である。建築の構成要素の中に、人々の物語や時間などが介在することが、コミュニティとテクトニクスの関係に対する現段階の我々の回答である。


セカイ/SEKAI

横井創馬+小野志門+北川健太
建築、家具、アート、イベントなど様々なデザインに関わる建築家3人のユニットです。何かをつくることで生まれる過去と未来のストーリーを大切にしています。建築を通してそこにしか生まれない時間や物語を紡ぎます。

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