Session27 -地域を包摂する新しい空間の大きさとは? –

2018 福祉空間性開発防災

日時:2018/10/21 15:00~18:00
会場:建築会館ホール
テーマ: 地域を包摂する新しい空間の大きさとは?
登壇者:小室匡示、下司歩(小室下司建築設計事務所)、堀田浩平(株式会社ハル建築研究所)、福井啓介(株式会社かまくらスタジオ)、山口陽登 (シイナリ建築設計事務所)、森田元志、勝亦優佑(勝亦・丸山建築計画事務所)、小泉瑛一(オンデザインパートナーズ)


 

【応答文1】
地域を包摂するアップデート
(小室下司建築設計事務所)

我々は東京を拠点に活動する設計事務所ですが、2016年から前橋市の幼稚園が運営する0~2歳児の一時保育を行う保育所のプロジェクトに関わり、定期的に通いながら活動してきました。この保育所は平屋の住宅を改修したもので、保育所としてだけでなく、幼稚園の年長の子供たちの遊び場になっています。彼らの遊びの要望や保育者の要望を受けながら、施設完成後もDIYワークショップを行い、遊び場として建物のアップデートを行っています。

昨年からのコロナウィルスの感染拡大を受け、我々が直接関わることは難しくなりましたが、元の空間を活用した遊びや、園児と保育者だけでできるアップデートを行いながら活用されています。昨年から今年にかけては、幼稚園の運動会や遠足などの課外活動が軒並み中止になったことから、幼稚園のすぐ近くにあるこの場所を使い、既存の幼稚園ではできない遊びを行い、建物のアップデートをしながら、コロナ渦での幼稚園の活動をサポートしています。

コロナ前後でこの施設の使われ方を見ていると、<地域を包摂する空間の大きさ>とは、この保育施設で行っているような建築の可変性や、成長可能性にあるのではないかというように考えています。そのとき空間の大きさは状況に応じて変えられることで、環境の変化に対応できます。そうした可変性あるいは、大きさを規定しないことが、地域を包摂する空間の役割なのではないでしょうか?

コロナ渦によって、今後も様々な変化が予測されますが、小室下司建築設計事務所としては引き続きこのプロジェクトに関わり、施設のアップデートを設計していきたいと考えています。


小室下司建築設計事務所

-小室匡示
芝浦工業大学大学院修了 武井誠+鍋島千恵/TNA勤務を経て小室下司建築設計事務所を共同主催
-下司歩
東京藝術大学大学院修了 隈研吾建築都市設計事務所 勤務を経て小室下司建築設計事務所を共同主催


 

【応答文2】
地域を包摂する「和室」
(堀田 浩平)

2018年に参加したセッションでは、設計者自身の拠点が地域と接点を持つような取り組みや、ボランティア100人との施設建設プロセスや博物館のバリアフリー化という建築・建設行為へのアクセシビリティの話、地方と都心の若者の移動を促すシェアハウスの仕組みなどが紹介された。その中で私は”元気な”高齢者や”軽度の”要介護者、障害者が街の一員として活躍できるような仕組みづくりの提案を紹介した(下図)。

老いる中で急にこれまでの社会生活から断絶した暮らしを強要される人が多い現状が変わるよう、そのような試みはこれからも増えていくべきだと思うし、実際全国で様々な取り組みが実践されている。

一方、”重度”の人・死を迎えようとする人と地域の関係についての取り組みはまだ少ないのではないか。今や75%を超える人が自宅ではなく病院や特別養護老人ホーム等の施設で死を迎えている。死とその近傍はこれら施設に隔離されブラックボックス化し、身近な近親者以外は関わりづらいものになっている。これは核家族化→地域コミュニティの希薄化→コモン空間を持たない排他的な住宅の生産→という負のスパイラルによる結果であり、さらに加速させる一因となっている。

今年完成した板橋区の「おうちにかえろう。病院」(MTM Designと協働)は、在宅医療事業をより強化するために、長期間入院治療・患者の管理を行う病院ではなく、病気と向き合い共に生きることを支えるための病院である。スタッフのサポートを受け、自分の生き方と家族や友人との関係を見つめ直し、自分らしい死に向かって晩年を過ごして行く。本人も周囲も、死に向かって心の準備をしてきているため、悲しみと共に幸福感と笑顔のある看取りの時間が生まれている。

もう一つ、現在進行している横浜市内の計画(YONG architecture studio / iyu architectureと協働)では地主さんの土地と建物の活用と、多世代が住まう集合住宅の計画を行なっている。地主さんである高齢の女性は、この場所が若い学生や近所の友人が出入りする賑やかな場所になり、充実した老後を過ごし、最後は彼らに看取ってもらいたいと夢を描いている。

このように人の死を地域に取り戻すことは、結局人の拠り所となる居場所を考えることだ。居場所というのはその人にとってなじみの空間と人が両方あって成立するもので、高齢になってから「高齢者の居場所」として与えられた所を心から居場所と思える人は少ないだろう。だから地域での保育・教育のあり方、商業、労働、余暇、老後のあり方、、あらゆる要素を見つめ直し繋ぎ合わせることが必要になる。地域で人の誕生を祝い、互いに育て合い、人の死を悼み合う関係性を取り戻すこと、そしてそれが可能な空間を都市に再生することが、地域の社会的包摂へ繋がるのではないだろうか。

ではそのような空間とはどのようなものだろうか。上述のように個々人の居場所から離れず死を迎えるためには、家族や友人に加え医師・看護師・介護士等の専門家、食事や生活品の配送受け入れ等、様々な人を受け入れる場所が必要になる。ICT設備を活用した見守りシステムも入り込むだろう。ハコモノ施設の脱施設化が進むと同時に、住宅の施設化も進むと言える。

こうしてコモンとプライベート、ハレとケといった両義性のある空間が住宅で再び必要とされる時、「和室」という、世界で日本にしかないこのユニバーサルな空間を改めて見直すべき時ではないだろうか。和室は元来、身分社会である平安時代までは貴族の着座する場所にのみ敷いていた畳を、武家社会に移り室全面に敷並べ、身分によらず平等に座り遊興や文芸を楽しむために生まれた「会所」が起源とされ、その後書院造りや数寄屋造りの変遷を受け入れながら文化として定着してきた。A.レーモンドは、「日本の部屋は空である。椅子はなく、人は低い卓を持ち出し、必要なものは、必要に応じて押し入れから取りだされる。一方では掛け軸がかけられ、ささやかな花などが、季節に応じて壺に活けられる。…部屋は空間と、住む人のこころのみが占有する。」と語っている。

このように和室の起源と本質を見つめ直し、現代で改めて空間化、実体化することは、地域を包摂する力になるのではないだろうか。きっと文化としての底力が、後押ししてくれるだろう。

堀田 浩平
1987年生まれ、横浜国立大学大学院建築計画研究室修了後、現在、ハル建築研究所所属、筑波技術大学非常勤講師

 

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