Session22 -制度設計のローカライズによって実現可能な福祉施設とは?-

2017 ローカリティ制度福祉

日時:2017/10/22 17:00~18:00
会場:建築会館ホール
テーマ: 制度設計のローカライズによって実現可能な福祉施設とは?
ゲストメンター:馬場貞幸|黄櫨綜合法律事務所所属/一般社団法人ライツアンドクリエイション理事
登壇者:渡辺瑞帆、猪飼洋平、永田敦、西田司、畠和宏、友渕貴之


 

【応答文1】
いま改めて「制度設計のローカライズによって実現可能な福祉施設」を考える
(畠和宏)

私は2016年・2017年のパラレル・プロジェクションズに参加させていただいた。わずかな時間ながら、近い年代のさまざまな思考をもつ方々と共通のテーマで議論を交わすことは、新たな気付きを得たり自身の思考や活動を捉え直すことのできる大変貴重な機会となった。2018年以降は業務とのタイミングが合わず参加が叶わなかったが、このような場を提供していただいたみなさまにこの場を借りて感謝申し上げたい。

さて、2017年のテーマは「動く、動かない」であった。当時の私は、拠点は東京から岡山へ、仕事は実務から教育・研究の道へと思い切って「動いた」タイミングであり、テーマと自身の置かれた状況を重ね合わせていたことを覚えている。セッションでは「制度設計のローカライズによって実現可能な福祉施設とは?」というテーマに対し、前職での経験から、沖縄県の高齢者施設や病院の浴室に当たり前のように浴槽が設置されていること、その浴槽がことごとく荷物置き場と化している現状を目の当たりにしたことを話題に挙げた。これは、シャワー派が多いとされる沖縄県民の県民性を考えるとある意味納得のいく使われ方なのだが、であるならばそもそもそこに浴槽は必要か、という疑問が浮かぶ。一見些細なことではあるものの、このことにも制度設計を含めた施設計画のローカライズの必要性が示唆されているのではないだろうか。

次に、福祉施設という枠からは少し外れるが、自身が関与した岡山県総社市での木造仮設住宅建設にも触れておきたい。2018年7月に発生した西日本豪雨により被災した岡山県総社市では24棟(46世帯分)の木造応急仮設住宅が建設された。これらは全て2011年の東日本大震災後に福島県いわき市に建設され、2018年3月でその役目を終えた板倉構法の木造仮設住宅を移築したものである。移築に至る経緯や詳細はここでは割愛するが、この移築プロジェクトが実現した背景には「事務委任」という制度が大きく関係している。災害救助法による事務委任は、迅速な災害対応のため、本来は都道府県知事が担う事務の一部を市町村長に委任するものである。総社市では被災から数日後、市内にあった旧雇用促進住宅をみなし仮設として供与するため、県から事務委任をうけた。委任項目にははじめから建設型の応急仮設住宅の供与に関する内容も含まれていたが、それが必要であると判断されたのはそのあと数日経ってからのことであった。そのとき既に委任を受けていたため、制度上、総社市主導での応急仮設住宅建設を余儀なくされたのである。結果的にはそのことが迅速な意思決定や細やかな対応につながり、福島で役目を終えた仮設住宅を岡山で再利用するという前例のないプロジェクトを実現に導いた。その後、2020年に仮設住宅としての二度目の役目を終えた木造仮設住宅のうち13棟(26世帯分)は再度の解体・建設を経て、現在は復興住宅として再々利用されている。仮設住宅としての再利用、また復興住宅としての再々利用に際しては、外壁材をはじめとして若干の仕様変更が加えられるなど、最適化を繰り返しながら住まう人をまもり続けている。いま振り返ると、あの時の事務委任がなければ移築には至らなかった可能性が高いと考えられることから、ひとつの制度がプロジェクトの実現を後押しした稀有な事例であったといえる。ただし、このプロジェクトの実現は事務委任という制度のほか、多くの関係者の尽力が実を結んだ結果であったことを付け加えておきたい。

月日が経つのは早いもので、岡山に拠点を移して4年半が経過した。この期間はコロナの影響ももちろんあったが、あえてあまり「動かず」に、地域の方や学生たちとさまざまなプロジェクトに取り組んできた。最近では自身の新たなテーマとして、研究室の学生らとともに岡山県内の児童養護施設の研究に着手している。児童養護施設はいま、2016年の児童福祉法改正によって「施設から地域・家庭へ」の大転換期を迎えている。地域の特性や各施設が置かれている現状が大きく異なるなかで、それぞれの施設が「小規模化・地域分散化」に向けて一斉に舵を切らなければいけない状況であり、いまこそまさに「制度設計を含めたローカライズ」が求められているのだ。岡山県は、岡山孤児院を創設し児童福祉の父と呼ばれる石井十次や、日本で最初の里親と言われる和気広虫、家庭学校を創設した留岡幸助らの活動に代表されるように、わが国における社会的養護の礎を築いてきた歴史がある。そんな岡山県において、これからの児童養護施設のあり方を問い直したい。奇しくも4年前に向き合ったテーマにここにきて改めて正面から向き合うこととなり、一層気を引き締めている。


畠 和宏

1987年、宮城県生まれ。宮城大学(学士)・筑波大学大学院(修士)を経て、2012年より株式会社プランテック総合計画事務所にてオフィスビル等の設計業務に従事。2015年より株式会社キャピタルメディカにて医療・福祉施設の設計・マネジメント業務に従事する傍ら、千葉大学大学院にて小児療養環境に関する研究に着手。2017年より岡山県立大学助教となり、現在に至る。博士(工学)。

 


 

【応答文2】
訪問介護・看護サービスを提供するための事務所の計画
永田敦

・振り返り
セッション当時(2017.10)は、設計事務所を退職し、建築士試験を終えた直後の参加だった。個人として、建築業界の人との交流が、とても久しぶりのことだった。正直、議論の内容はあまり思えていないのだが、参加者の豊富な知識量や話し方、積極性や雰囲気などが、非常に印象に残っている。建築物ではなく、人間性としての自分の立ち位置を相対的に認識できた良い機会だったと思う。

・セッションテーマに関して
現行プロジェクトのひとつに、住居専用地域に訪問介護・看護サービスを提供するための事務所の計画がある。この用途は、平成27年に閣議決定されるまでは、「事務所」と判断され、住居専用地域に立地できない場合があった。(この閣議決定で、「老人福祉センターその他これに類するもの」と取り扱えるようになった)6年前とは言え、高齢化の進む住居専用地域に、この種の事務所が建てられないのは、社会的問題であった。このような不都合が顕在化され、現行法が改正されるまでには時間がかかり、その手続きを待っている間に、不便を被る人々は数多い。勿論、市町村によっては、それ以前から、条例によってOKと解釈しているところはあったと思うが、多くの市町村ではそういった解釈は通用しない。

改正を待っていては遅すぎ、とはいえ、改正を促す活動をするのも、非常に労力が掛かる。ただ、後者が行なわれなければ改正は実現しない。また、各諸問題は、全国共通であることの方が多く、ローカライズされた制度設計が、より分かりやすく全国へ共有でき、各市町村が採用しやすい状態にするべきだと思う。情報化社会において、改正事例や活動を取りまとめ、各市町村と効率よく情報を共有できる仕組みができたら、変動する社会のスピードに法律が追いついてくるはずだ。

・現在進行中の事務所計画について
本事務所の計画は、上記社会的問題を背景に抱える一方で、小さな事務所建築だからこそ実現できる、小さいからこそ弱い部材もたわまないことに着目した、床が家具のように移動可能な建築を計画している。

 

永田敦
1987年生まれ、東北大学大学院卒業後、TNAを経て、現在、NagaArts代表

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