ニュートラルな時間
私の原風景は現代的な住宅であった。街にはビルが立ち並び、それは近未来的であり偽未来的な都市にも見えた。周りにあるもののほとんどは新しく、日本の伝統的な空間は日常ではない。この都市への印象は、東京生まれ東京育ちの、少なくとも私と近い世代の人の多くがもっている感覚だろう。パリの数百年を超えて住まわれるアパルトマン。幾度もリノベーションやコンバージョンがなされた建築では、既存の空間と現在の機能のギャップの中で人々が暮らしている。17、8世紀に建てられたアパルトマンは過去のものではなく、今日の日常的な生活空間となっている。パリに限らず、いま建築空間に内在する「時間」は、とてもニュートラルな状態にある。我々の視線によって、伝統的な空間は非日常となり、ニュートラルな空間構成をもって目の前に現れはじめた。
小原えり
明治大学大学院
専門分野|意匠
活動地|東京、パリ
生まれ|1989
書院造の空間構成のヴィジュアル化とその空間構成手法に関する研究を行っている。日本の伝統的建築や住宅の空間構成に見られる、「仕切る」空間構成は機能や住まう人の変化に対応可能な空間である。建築が余る気配のあるこの都市で、古い日本の空間の性格を保存するだけでなく、その構成手法を明らかにし、今日の新たな住宅の日常空間に存在させることはできないだろうか。
今回提示するのはこの構想のきっかけとなったパリ19区の住宅のプロジェクトである。パリの敷地、マッスな空間を単調に「仕切る」壁面、全空間を支える柱と梁、それらをニュートラルな状態に戻すと、アパルトマンに典型的な機能のグラデーションが配置される。日本的な空間構成手法は零度に戻すと、アンフィラードのようなシーンを作った。脈絡のない各要素がそれぞれの場面で重なり、全空間が出来上がる。その間を人が浮遊する。
Maison Manifeste By Eri Ohara