OODA(Observe,Orient,Decide,Act)
成長を前提とした環境において機能するPDCA(Plan,Do,Check,Act)に対して、現代のような刻々と変化する状況への対応が意図されたOODA(Observe,Orient,Decide,Act)という意思決定モデルがあり、経営などの観点から注目されている。未来(計画)への有用性によって現在をふるいにかけるのではなく、自由な視野で広く現在を「観測」し、その結びつきの中に指針を「見出す」段階を経て、論理的/直感的な「決定」をし「実践」する。その実践がまた観測の一対象となる循環である。私たちは、複雑な出来事の総体としての環境の中に建築を位置づけており、設計した施設の運営に関わることもあるのだが、この循環に設計者の構えとしての可能性を感じている。有用性という観点からは見過ごされる出来事の奥に「普遍性」を見つけだす感覚と、直感をも受け入れるような「即興性」へと向かう感覚。二極化する感覚の間を揺れ動く先に、建築と生活の営みを同じ地平に捉えるような未来を思い描いている。
伊藤孝仁
tomito architecture
専門分野|意匠
活動地|横浜
生まれ|1987
【2017】真鶴は日本有数の採石場であり、漁場でもあり、都心からのアクセスも良い一方で、湯河原や熱海と違い温泉は出ず、利用できる水資源にも限りがある。その地質的・地形的・地政的なユニークさは、観光地やリゾートになりきれない半端さをもたらしている。それゆえこの町の人々は、暮らしの中に既にある環境の「質」について真剣に考えた経験があり、そうしてつくられた「美の基準」を含むまちづくり条例は、親密なスケールや景観の維持に寄与している。
それから四半世紀が経った真鶴で、背戸道に面する民家を改修し、宿とキオスクを計画するプロジェクトである。「旅と移住の間」をコンセプトとする宿は、観光目的の短期滞在だけでなく、移住を検討している人の中長期的な受け皿となることも想定されている。総務省によって過疎地域に指定された真鶴町では、移住を希望する人がアクセスできる窓口の需要が高まっている。
キオスクへの買い物客、1泊2日の観光客、1ヶ月滞在する移住希望者、長くこの地で暮らす周辺住民といった、多様な時間感覚が重なるこの場所において、建築が持つべき質は何かを考えている。
真鶴の漁師は、半島の先端にある森を大切に育てている。森と海は繋がっており、その存在が漁場を支えているからである。宿もまた、地域資源とのネットワークのなかで成立している。町を育てるような建築的思考が必要である。
【2018】京浜急行日ノ出町駅裏の空き家群の改修計画。駅から徒歩1分の立地であり、丘に広がる住宅地の玄関口にあたる。350年前に行われた吉田新田埋め立て事業の際に利用された崖沿いのスロープは現在も住民の日常を支えており、そこに面する敷地は、魅力的な階段や石垣に囲まれ、立体的な構成である。
バブル期に浮上し頓挫した駅ビル開発計画の名残である空き家群の改修を、埋め立て事業を行った吉田勘兵衛の子孫が経営する地元不動産とともに、入居者探しと改修計画を並行させながら進めている。ランドスケープ/歴史/日常を関係付けることを、建築設計を通して考えたい。
【2019】セッションリーダー
参加セッション:セッション28「「メディアプラクティス」としての建築は可能か?」
1,2枚目:2017年度、クレジット:大高隆、3枚目:2018年度