幾多の可能性から偶然導かれた物語
上海の旧フランス租界地区。私たちの事務所が位置するこの場所は、いまから約百年前、この地区には西洋の街並みを模した建物がつくられ、フランス人などの裕福な人々が住み着いた。戦後の文化革命時、これらの建物の中で何家族も共同生活を強いられたという歴史があり、その過程で様々な増改築が行われてきた。街の様子も当初の高級住宅地というよりは、長い時間をかけて中国化され下町のような雰囲気を醸し出している。他のどの中国の街とも、もちろん西洋の街とも異なる特異な環境が存在し、当初とは異なる意図で建物が使いこなされている凄みと冗長さを感じる。こういった街や建築は、現在の都市や建築がけして必然的なものではなく、幾多の可能性のなかから偶然導かれた1つの物語だということを示してくれる。
松下晃士
office coastline
専門分野|意匠
活動地|上海
生まれ|1988
中国杭州の田舎、临安に計画中の陶芸家のアトリエです。
敷地は平行して走る道路と河川のあいだ、植林された広大な竹林の端に位置しています。周囲には住宅はなく、河川に沿った鉄塔、送電所、水浄化施設などインフラや工場が点在しています。この坦々としたまとまりのない環境に建築はサイロのように、或いは砦のように少し周囲から自律したものとして立ち現れます。ここで製作し、展示し、教室を開き、来客をもてなし、住むことを決めた陶芸家にたいし、大きく3つの建物を準備します。1つは工房や食堂のある大きな空間からなる棟。2つめはゲストや家族のための沢山の部屋からなる棟。3つめは地上にアトリエ、頂上に茶室、その間に展示室のある棟です。3つの建物はくっついたり短い橋で繋がりながら、全体としては1つの塊のように見えます。中国のとある田舎、その風景を少し更新するように立つ建物です。