セルフ・リノベーション
セルフリノベには、住み手の住まいへの愛着やメンテナンス意識を高め、施工前の挨拶、工具の貸し借りや工事中のふとした立ち話をきっかけに近隣住民とのつながりを育むといった効果もみられる。さらにはセルフリノベ実施前の申請・承認手続きを通して住み手と貸し手との信頼関係が築かれ、結果としてDIY作業ができる工房の新設や住民同士の関係づくりを促す共用スペースの新設へとつながるといった出来事も確認される。近代の計画では避けられてきた人と空間、人と人との直接的な関係性を築くセルフリノベには、住み手が管理の対象ではなく、持続的に住まいをつくる・つくり変える協働者となる未来の可能性が示されていると感じる。
西野雄一郎
大阪市立大学都市研究プラザ
専門分野|計画
活動地|大阪
生まれ|1985
人口減少が進み消滅可能性都市の1つに数えられる大阪市大正区において、空き家や空き空間をリノベーションするプロジェクトに取り組んでいる。なかでも特に、空間を利用する当事者とともに計画・設計・施工を行なうセルフ・リノベーション(セルフリノベ)に力を入れている。これまでに、地域の空き家活用を促すイベントの開催、商店街の空き店舗を地域活動拠点にセルフリノベ、市立中学校の空き教室を美術部の創造拠点にセルフリノベ、などを行なってきた。
空き教室のプロジェクトでは、教室の使い方検討から改修設計まで生徒と共同で行なうことで、専門家だけでは考えの及ばないようなカラフルで個性的な空間が創り出された。そして完成見学会では、生徒、保護者、教育関係者、地域住民らが空間の使い方を話し合い、新たなアイデアへと発展していった。セルフリノベには、空間の利用価値を高めるだけでなく、持続的な活用を促し、人と人とをつなぐ力を持っていると感じている。
これまでの活動を通して築かれた人的ネットワークを基に、建築設計事務所・工務店・不動産会社・インスペクション会社・弁護士・金融機関・行政などと協働で、セルフリノベを取り入れながらの建築再生・活用の促進とまちの価値向上を図る取組みをはじめたところである。