場のポテンシャル
阿蘇にある伯父の家は今回の熊本地震で半壊認定を受けた。時に建築が人を傷つけ、恐怖に陥れる可能性があることを実感した。町のごみ処理場には、それぞれの住宅を支えていた木材ががれきとなり、高く積み上げられていた。幸い明治時代に建てられた伯父の家の母屋は改修して使い続けられることとなったが、庭にあった蔵は解体せざるを得なかった。私が子供のころに探検した蔵はなくなったが、解体後、そこには意外なほど広い庭があった。ここにはあらたな草が生え、花が咲くだろう。
30年後、日本の総人口は1億人を下回り、多くの空間が今以上に余剰となる。しかし、建築は計画、新築、改修、解体すべてのフェーズを通じて、その場所のポテンシャルを変化させていく。場の魅力を発見する営みこそが建築という行為であり、魅力的に感じるひとがいる限り、その空間は無くならない。私はそういった発見のきっかけとして、建築という営みに携わっていきたい。
中川聡一郎
株式会社竹中工務店
専門分野|意匠
活動地|東京
生まれ|1986
私は現在ゼネコン設計部で建築設計を行っている。これまで学生時代の空き家改修や、現在の会社での施工管理者としての経験など、建築の企画、設計、材料調達、施工、運営など建築にまつわる様々なフェーズに携わってきた。その経験を通じて、建築がその場のポテンシャルとユーザーをつなぎ合わせるきっかけとなっていることを感じてきた。
「屋上木化ー地上31ⅿの木造住宅地ー」は、社内コンペで提案したアイデアであるが、大阪御堂筋の未利用容積率や不揃いとなった軒線を新たなポテンシャルととらえ、御堂筋に暮らす新たなユーザーを設定することで、エリアの魅力を取り戻すことを意図している。超高層への建替という選択肢への前段としてのオフィスビルの増築という可能性を示し、御堂筋という場の可能性を示したかった。