「安全」と「安心」のちがい
法律や構造力学に基づいて「安全」を論じることはできるが、「安心」は各個人の感覚で論じられることが多い。東北大震災では長周期の地震によって、震源から遠い東京でも数分間も揺れが続いた建物があるという。地震時に限らず、目の前の道路を大きな車が通ると振動を感じる建物も多い。こういった建物の性状は、構造設計者からするとある程度想定内であるが、建物を利用する人たちが「安心」だと考えるかは疑わしい。同様に、法律で規定される最小限の耐力壁を配置して設計された木造住宅が、大地震の後でも補修なく住み続けられる被害かというとそうではない場合も多い。構造体が健全であっても、天井や外壁などの仕上材に大きな損傷が生じてしまうと、「安心」な建物とは言えないだろう。この先日本の社会がより成熟し、建築主が求める「安心」が多様になったときに、構造設計者はそれに応えた「安全」を設計することが重要になる。
岡山俊介
金箱構造設計事務所
専門分野|構造設計
活動地|東京など関東を中心に日本全国
生まれ|1982
【2016】事務所スタッフの一員として事務所のプロジェクトに携わる一方で、高校・大学時代の友人・知人たちとの協働プロジェクトを行うことが増えてきた。
全国各地へと活動の場を広げる年齢の近い友人たちとのプロジェクトを通じて、構造設計の魅力をさまざまなところへ広げていけるようにできればと考えている。
現在は関東近県の木造住宅の構造設計や、高知で活動する建築家と既存建物の利活用を意図したプロジェクトなどを行っている。
【2018】現在実施設計中の木造平屋建ての庁舎。木の産地としても有名な長野県木曽町での計画であり、地場産の木材を使用した建築が求められている。大きな屋根で覆われた建物は、建物短辺方向に「出梁ユニット」と呼ぶ架構を並べた軸組みを、建物長手方向に並列させることで構成している。木曽町に見られる伝統的な出梁の架構から着想を得た出梁ユニットは、在来軸組み工法による片持ち梁構造での屋根支持架構であるとともに、構造用合板貼り耐震壁を組み込むことで耐震要素としても機能する。建築的に無柱空間が要求される執務スペースや議場、エントランスのホールなどでは、出梁ユニットをつなぐ桁方向の架構で木造トラスを形成することで大スパンの構造を実現している。実施設計においては町の協力もあり、町有林での木材調達の状況を設計に反映することや、地元の施工者との建設検討の場を設けるなど、様々な要望に応えた建物の設計を目指している。
【2019】都内の構造専業事務所で日本全国の建物の構造設計を行っている。長野県木曽町での町役場庁舎建設工事では、町有林のヒノキ、カラマツを用いた木造架構の建物が求められた。基本設計の段階から、町産材の量とサイズを把握することで、それに見合う架構で建物を設計している。さらに、設計だけでなく施工を行う地元の大工集とも設計の段階から意見交換を重ね、普通とは違う在来軸組み工法の木造架構に対する理解を広めていった。2019年1月には、木曽町などのサポートにより実大のモックアップ作成を行っている。設計者、発注者が計画建物のスケールを体感できただけでなく、大工集が架構の特徴や難易度を理解し、「自分たちが町役場をつくるんだ。」という気持ちを盛り上げることに大きく役立った。2019年3月に実施設計を終え、2019年10月着工予定。
参加セッション:セッション31「設計業(者)の多角的な活動による新しい組織のかたちとは?」
1,2枚目:2016年度、3枚目:2018年度