パブリックスケープ都市
パブリック/スケープ/都市の連結により構成されたこの造語は、過去~現在~未来を横断する視点で、1つの建築・まちを捉え続ける言葉である。
日本に西欧的な意味の「広場」は存在しないと言われ、日本社会的な公共性のあり方(安易なハコモノ建築への批判ではなく)が90年代以前より議論されてきた。唯一解のない問題であるが、物としての建築、コトとしての運用など、いくつもの論点がある。その中で、時間軸のある瞬間で固定した「スケープ=景色、景観、風景etc.」ではなく、人の活動により変化するアクティヴィティをスケープの内に同時に捉え、建築と都市の境界をつなげて考えることである。
デザイン/思想/素材が最先端なものとして閉じたメディアの一部で評価されたとしても、一過性の盛り上がりでは意味がない。多くの人が集まり、大人や子供が躍動するパブリックスペースを永続的に創れなければ、また何十年と放置される公共空間が生まれてしまう危機感がある。そこに切り込むために、デジタルデザインにより変化や流れを可視化し、設計やコミュニケーションに反映することで、アクティヴィティがそこにあり続ける空間を創ることを試みている。
2000年以降のデジタル技術の爆発的進化が疑似的な身体/空間拡張を引き起こし、「都市」のイメージは溶解し、ますますその姿を我々の目の前から姿を隠してしまったが、この「パブリックスケープ都市」という言葉によって、今一度、人-空間-都市を1つの連続的思考として考えていきたい。
矢野雅規
株式会社日建設計 設計部門 主管
専門分野|意匠設計
活動地|東京
生まれ|1980
私は、日建設計という組織設計事務所の一員として設計を行っている。社会の中で設計活動を始め10年以上が経過したわけだが、対組織設計事務所批評の最大の論点として、メガスケールが生む公共空間の非人間性という視点が、常に我々の前に存在し続けている。そこを突破する鍵は、決してスケールメリットとしての組織力ではなく、個の強いヴィジョンやイメージ、個のネットワークが最も重要であると考える。
芸術・文化に縁の深い複数の建築を手掛けてきたこの10年というフローの中で、2012年から本格的に設計を開始し、2016年6月に着工した美術館プロジェクトがある。東京駅前京橋の地で、「まちに開かれた、芸術・文化拠点の形成」を都市貢献の1つとする都市再生特別地区の大規模開発であるが、ブリヂストン美術館を核とした新しいパブリックスペースデザインの実現を目指している。
10年を超えるこの主の長期プロジェクトにおいては、時流に載った流行のデザインではなく、人・物・コトにまで拡張した広義のデザイン思考が必要となる。持続可能な街づくりのために、「未来」は「現在」と常に同義であり、決して安易な「夢」にはできない切実な問題として我々の前に横たわっている。
「設計する」という刹那的・瞬間的な行為だけでなく、文化・芸術・街・人・環境etc.への持続的な関わり方をデザインする、そのヴィジョンを共有する仕組みをデザインすることこそが、建築家としての私にとっての未来である。
株式会社日建設計