境界線をほぐす

「近代化」というのはあらゆるもののあいだに厳格な境界線を引いていくことだったのではないか。所有、権利、責任など、さまざまな制度設定の局面で線引きが行われてきた。そんな境界線の「可視化」にむけて都市設計や建築設計がその一端を担ってきた。海と陸のあいだには堤防が、車と人のあいだにはガードレールが、家と家のあいだにはフェンスが、それぞれの境界線を増強するように設けられてきた。この境界線をほぐしたい。存在している境界線をじっくりと認めた上でそのひとつひとつ、絡まる糸をほぐすように、ぴんと張られた糸の緊張を緩めるように。ただし、境界線のない未線引き時代を標榜したいというわけではない。近代の境界線を認め、境界線の持っているある種の居心地の良さを享受して、その上で創造的に境界線をほぐしていくとき、事物の関係にさらなる豊かさが発見できるかもしれない。境界線の否定ではなく、境界線に働きかける能動的な主体として存在する建築のあり方。

市川大輔

adm
専門分野|意匠
活動地|愛知県半田市
生まれ|1980

[現在のプロジェクト]

出身地である愛知県半田市でadm(architectural design market)という建築設計事務所を主宰してから、地域活動にも参加するようになった。それは建築設計に役立つ課題を探しているのと同時に、個人の生きがいを探しに出かけていることでもある。建築設計という専門の武器を持っていっているようでいて、丸腰で出かけていっているようでもある。今まで知り合うことのなかった誰かや違う価値観で地域をみている誰かと、活動を一緒にすることの煩わしさとその豊かさ。活動の実感。
「境界線をほぐす」という課題を意識するようになった。すでに横たわっている境界線を見つけて、それをほぐそうとする。地域活動にはそもそも自然体にそんな側面があったから。
設計の只中にある「亀崎公園整備計画」は既存の小さな街区公園の再整備。この公園と地域のあいだに存在するさまざまな境界線を見つけては、それらをほぐそうとしている。半田市亀崎地区にある建築形式の採用、甍の連なりへの参加、軒がかかる路地との連続、敷地周辺に存在しているマテリアルの採用、盆踊りや廃品回収、イベントなどの地域活動のための建築と遊具の配置などなど、身体化された地域へ首を突っ込んでみる。

2016 制度地方職能の拡大
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