ケアの実体化
今後、医療機能はますます専門分化し、地域包括ケアが進められていくなかで、医療・福祉を取り巻く施設や場のあり方は多様化していくと考えられる。それに伴い、それぞれの施設が目指すケアやホスピタリティを実体化する建築が求められるのではないだろうか。そのため、患者や利用者にとって良い環境とは一体何かという問いに対して集団的創造の実践を通して思考するプロセスが医療や福祉の現場に必要だと考えている。〈か〉〈かた〉〈かたち〉の思考プロセスに医療・福祉施設が参画し、環境への価値を集団として見いだすことで、環境そのものがケアの手段あるいは表現となり、ケアが実体化された建築となるのではないだろうか。そのためにも、医療とは異なる視点を持つアートや建築との協働的実践のマネジメント手法を構築していくことが必要だと考えている。
岩田祐佳梨
筑波大学大学院博士後期課程、筑波メディカルセンター
専門分野|意匠/計画/医療
活動地|つくば市/医療施設
生まれ|1987
私は病院と大学の協働による改修プロジェクトのマネジメントを務めながら、アクションリサーチとして協働プロセスの研究を行っている。例えば、利用調査、議論、ワークショップを重ねて利用頻度の低かった家族控え室の機能を見直し、患者に開かれたコモンスペースとして改修した「つつまれサロン」がある。本プロジェクトは、病院が抱える潜在的課題に対して部分的な改修を行うことで、患者にとって質の高い環境の実現を目指したものである。同時に改修プロセスが病院職員と学生の両者にとって、病院の環境とはどうあるべきかという問いに対する学びの場となることを目的としている。そのため、私はコーディネーターとして病院組織に入り込み、異なる専門言語を持つ両者の協働的実践を支援している。
改修に向けた「妄想ワークショップ 」, 「つつまれサロン」,医療者と作り手の交流イベント「つながるカフェ」 ©reo murakami