中心の空白
近年のグローバル・ツーリズムが推し進められる状況下では、都市が個々のアイデンティティを獲得するために表層を視覚的に強化する(「その都市らしく」する)例が多くみられる。京都市が定めるデザインレギュレーションは、まさに表層に関するものである。そういった背景で、都市・建築の空間的性質が捨象され、表層表現に偏る状況は、こと京都に限ったことではないが、顕著であると考えられる。
京都における京都御苑、マンハッタンにおけるセントラルパークは、リジッドな骨格の中心にある空白が、都市に空間的なアイデンティティを与え、人々に生命的な場を提供している。人間が生きる上で真に必要であるのは、日々めまぐるしく変化する記号的表層ではなく、都市の肺としての空間的空白ではないだろうか。クアドラングル、コートハウス、町家といった構成形式にも見られる「中心の余白」は、現代都市、建築が高密化・表層化・ビッグネス化する状況下で、有効な戦略となるはずだ。
佐野 亮
株式会社竹中工務店
専門分野|意匠
活動地|大阪・京都
生まれ|1988
西陣織の金銀糸に端を発する企業の本社ビルを設計している。
敷地は京都府西陣の中心地。京都市のデザインレギュレーションの中でも、とりわけその規制の厳しいこのエリアにおいて、間口10m、奥行60mの狭長な敷地に、最大容積を有した高密なオフィスを計画している。土・風・水・雨・熱・光など、身体の戯れについてのさまざまな知恵が凝縮された「中心の空白」をもつ「町家」形式を参照した。
「高さ規制」「マテリアル規制」「形態規制」という制約の中で目指したのは、「中規模町家型オフィスのプロトタイプ」である。ここでは、①周囲のスケールに調和したスカイラインの形成 ②3つの庭をもつ町家型の構成 ③鉄骨造による門型フレームによる無柱空間 をその条件とし、快適なワークプレイスの実現に挑戦している。