制度を相対化する空間の系譜学

建築は様々な制度に取り囲まれている。全国平等な教育が制度化して学校になり、住宅産業を押し進めるために耐震が制度化して4号建物を生むなど、いわゆる建設産業に属する建築は、常に制度と無関係ではいられず、建築家の表現も制度から自由ではなかった。ただ、このような制度は主に近代において成立したもので、建築基準法の前身である市街地建築物法(1919年)が制定される以前にも当然建築は存在していたため、当時の実情に合わせて暫定的に制定し、時代の変化と共に絶えず改訂されてきた。その一方で制度を直接操作することのできない建築家は、制度自体を様々に読み替えることでそれを相対化し、既存の制度に見直しを迫る試みを続けてきたと考えられる。このように制度を相対化する空間の実践を系譜として位置づけることは、制度の取り扱いを建築家の設計の対象とすることであり、産業界の特定の専門家が独占する社会ではなく、個に結びついた自立共生型の社会を実現することに繋がるのではないか。

津賀洋輔

津賀洋輔建築事務所/東京工業大学博士課程
専門分野|建築意匠、都市計画
活動地|東京都
生まれ|1983

[現在のプロジェクト]

【2016】私は、建築事務所を主宰する傍ら、東京工業大学塚本研究室で博士論文を執筆している。特徴としてはどちらも、既存の産業界の制度に揺さぶりをかけ、建築家の職能や表現の幅を広げる試みを行っていると言える。例えば建築事務所で取り組んでいる在日スウェーデン大使館の木製建具改修のプロジェクトでは、既存のスウェーデン製の開き戸の木製二重サッシに日本の施工者が苦戦し、たくさんの専門家が登場するも結果として施工費が高額になってしまった。検討を進めていくうちに、スウェーデンから職人や道具を調達した方が安く、効率性が高いことがわかったのでそちらで対応することにしたが、この問題はそれぞれの国の、窓にまつわる文化や制度に紐づいた産業の違いを露呈した結果となった。このような違いを相対的に扱い、設計や施工に関する判断をすること自体、建築家の職能を拡張する試みと捉えられるのではないだろうか。

【2019】通常の建築家としての設計業務に加えて、キュレーションやアドバイザーとしての活動を行っている。それはいままでの知識を総動員し、まだ試みられていないことに対して提言していく極めて設計的な作業だと思っている。単純な組織論ではなく、まだ見ぬ空間をつくるために組織がどうあるべきか議論できたら嬉しい。

20162019 制度材料職能の拡大
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