住宅建築の型
多様な社会の数だけ多様な住宅建築がある、という理解がある。住宅の姿に社会的条件が投影されることは確かだが、形としてみると似たものが全く異なる社会で成立していることはよくある。反対に似たような社会が全く異なる形の住宅建築を生み出すこともある。ここに社会の違いはさておき、町家や大屋根など繰り返される住宅建築の形を「型」と呼んで導入すると、形を先行する条件の結果ではなく、変化を許容する自律的な体系と捉え、形と条件の邂逅に社会や住宅建築の固有性を見出せるようになる。この認識は、現在の私たちの暮らしを様々な社会との比較のなかに置き、未来を進歩史観とは異なる見方で組み立てる方法論になるはずである。
佐々木 啓
東京工業大学/佐々木啓アトリエ
専門分野|意匠
活動地|東京
生まれ|1984
住宅建築の「型」について研究している。町家や大屋根など住宅には色々と名前のついた型がある。ここでの型とは、ある空間構成の条件を備えた建築群のことで、町家型の場合は間口が狭く奥行が深い敷地に建つ住宅となる。これによると京町家のように様式的に正当といえる例の他に、建築家の現代住宅作品や、街場の何気ない店舗付住宅も町家型になる。これらを教科書で学ぶ古典主義・モダニズム等の様式の違いや、建築作品・ヴァナキュラー等の主体の違いによる分類から離れ、空間構成上の原理から比較することで、「型」による差異の体系を取り出そうとしている。ここでは時代的・地域的文脈は相対化されて入れ替わり得るものになるから、型は建築表現に進歩史観とは別種の価値を持ち込む楔として再評価できるはずである。こうした考えのもとで大屋根型の住宅を設計した(「あずまだちの住宅」住宅特集2016年7月)。理論に基づく新たな実践を模索している。