30年後に見る、30年前の自分。
私は、未来の話をすることがあまり好きではありません。
時間の経過とともに近づくことのできる未来よりも、遠ざかっていく過去のほうに魅力を感じるからです。
私の活動と意識は、常に過去とともにあります。はるか昔の偉人の言葉に従い、古い建築家の設計手法をトレースし、古代に栄えた美意識を引用しながら、「いま、ここで」生きている私という一人の人間を通じて、現代に記念碑を築きたいと思っています。
その時代状況や生活環境に基づいて仕事をし、誰かのために何かをするということよりも、自分自身が何者であるのかを探求するために表現活動を続けています。それが果たして建築であるか否かということは、ある程度の時間が経過し、過去として振り返ったときにわかるのだと思います。

大室佑介
大室佑介アトリエ
専門分野|建築、美術
活動地|東京/三重
生まれ|1981
帰りたい場所を作る。
家庭の事情により、特に不自由なく生活してきた東京を離れ、縁もゆかりもない土地に移住してしまった今、この場所を私の故郷にするため尽力している。
手始めに、美術館を作った。
これまでに蓄積してきた知識、知恵、表現手法を用い、約5万円ほどの私財を投じて廃工場に手を入れて、私立美術館を開館した。
そこは、私の見たい作家の作品だけを厳選し、私の都合の良い時だけ開館することができる、私の美術館。
開館から間もなく、入館料300円という敷居を越えて大勢の人が集まってきた。
狭い町内からだけでなく県外からも来館者が訪れ、地域メディアが動き出し、思わぬ反響があった。
今は、美術館の分館を作っている。
私が惚れ込んだ作家の、とある作品のためだけの、常設の美術館。
三重県津市白山町川口地区。
山と田畑に囲まれ、鹿や猪や猿が家の敷地内を通る、静かな農村。
ここで私は、私と、私の家族が帰りたいと思える場所を作っている。
Hayato Wakabayashi