癒す建築
人は心が沈んだ時、病気や怪我を負った時など、心身が弱っている時にまわりの環境の影響をより強く受ける。いつもと同じ景色でも心身の状態次第で全く違う見え方をする。そんな流動的な感性を持つ人間を包み込む建築・空間はどういう存在であるべきなのか。医療・福祉の現場においては、医療行為や介護行為の効率性や安全性が最優先される。そこに異を唱えるつもりはないが、それだけで本当の意味で患者を癒すことが出来ているだろうか。例えば患者が小さいこどもの場合、闘病生活における一番の薬は母親をはじめとする家族の笑顔だったりしないだろうか。医学は日々進歩し、また我が国においては超高齢化が進み、それを取り巻く社会の変化の波に揉まれる中で、今本当に必要な建築は何なのか、という根本的な議論がまだまだ十分ではないように思う。医療・福祉の分野に限らず、「人を癒す建築」の在るべき姿について、改めて問い直す必要がある。
畠 和宏
岡山県立大学 デザイン学部 デザイン工学科 建築・都市デザイン領域 助教
専門分野|教育
活動地|岡山県
生まれ|1987
私は、医療・福祉分野の建築に特化した企業で設計・マネジメント業務を行う傍ら、千葉大学大学院博士課程で小児医療における療養環境等に関する研究活動を行っていた。実務と研究の相互作用によって、より良い環境づくりを目指したいと考えた為である。
そんな中、この4月から岡山県立大学にて助教の職を得、教育の世界に飛び込んだ。住む場所も仕事も一変することとなるが、家族を連れ、思い切って「動いた」のである。
岡山県立大学はその名の通り岡山県にあり、豊かな自然に囲まれたいわゆる地方の公立大学である。建築を学ぶ学生は各学年約20人と少数精鋭であることが最大の特徴といえる。
この地で、これからの建築教育のあり方について真剣に考えてみたい。自身の研究テーマである医療・福祉の視点を軸に、当初掲げていた実務と研究の相互作用を教育の場で実現させることが、自らに課した次なる課題である。