循環
経済的格差が広がり、人口減少や少子高齢化という現実の中で、2020年の東京オリンピック以後においてこそ「ビジネス」だけでは計りきれない「文化」の価値が共有されていくのではないか。そして「文化」と「ビジネス」を包括的に横断できる概念として「循環」がある。その循環を形として場所に定着できるのは建築意匠設計を生業とする建築家だ。建築は必ず場所と形を伴い、建築家の美学を介して場所固有の地域活動、歴史、地理、気候、都市計画条件、経済スキーム等を、フラットな循環系として関係付け、文化とビジネスを架橋する「価値」として提示することで、形をもつ建築は人々からの愛着すらも獲得できるはずだ。

沼野井 諭
沼野井諭建築設計事務所
専門分野|意匠
活動地|東京都
生まれ|1986
代表する建築設計事務所を設立してから、建築設計から都市計画まで、立地、用途、種別、規模が異なるプロジェクトを進めております。これらの中で通底して感じることは、建築とは、地域の環境、記憶、福祉といった「文化」を過去から未来へ引き継ぐ媒体であると同時に、不動産商品として「ビジネス」の対象であるということです。例えば、都心部で緑豊か庭と大きな屋敷を所有する地主は、相続税を支払うため、建物を取り壊し、戸建開発やマンション建設を行います。しかし、それを世の中の流れとして受け止めていいのでしょうか。先人が培ってきた資産を現代的に価値づけない限り、文化は抜け殻となり、ビジネスが全てを決定する退屈な世界になってしまいます。私は懐古主義的ではない方法で、「文化」と「ビジネス」の壮絶な駆け引きの間から、これからの建築を手探りでつくり出せれば、建築家として地域や都市そして歴史に貢献できるのではないかと考えています。