産業遺構の意匠利用
従来、高架下利用については、都市部における遊休地利用として、『空間』の利用に焦点が当てられがちであった。そのため、高架構造物そのものではなく、空間的な高さ、間口の広さ、などに価値を見出していた。しかし、高架構造物自体は100年以上の耐久性を持つ土木構造物である。その100年間は、土地に根付いた歴史の蓄積、100年前の意匠の伝承といった、過去・現在・未来を繋ぐ、産業遺構としての価値がある。時代を跨いで価値を繋いでいけるポテンシャルを秘めた存在として、高架構造物自体の魅力を見直さねばならない。その魅力こそが、他のエリアとのハード的な差別化を可能にするファクターとなり得る。土木構造物単独では、魅力を引き出すことは困難であるが、建築的思考を導入し意匠的な価値を引き出すことは可能である。今後建築は構造物ストックの活用について、土木構造物にまで拡がるはずである。
加藤寛之
南海電気鉄道株式会社
専門分野|都市
活動地|大阪府大阪市
生まれ|1986
私は南海電気鉄道株式会社にて、エリアディベロッパーとして、昭和初期の鉄道高架をリノベーションし、新たな価値を次世代へ繋げていく『NAMBA EKIKAN PROJECT』を手掛けている。
プロジェクトの特色としては、土木ストックの活用を建築的アプローチで試みた点である。
ハードアプローチとしては、土木構造物の力強さと鉄道高架の産業遺構としての魅力にフォーカスし、高架アーチや杉板型枠が転写されたテクスチャーを遺したまま、一点モノの空間としてリノベーションを行った。
また、土木構造物の建築的利用について、法令を始めとする取り扱いを整理・協議する事で、建築物としての活用を簡易にした。
ソフトアプローチとしては、共通の趣味・志向によって人と人とがつながり、SNSでは味わえない、リアルな結びつきを誘発する場を作り上げた。
NAMBA EKIKAN PROJECT 高架構造物の意匠利用例