Session09 – 地域の建築が持つ意匠的特徴をどのように継承しつつ、現代的な機能を満たせるか? –
日時:2016/10/9 16:45〜17:45
会場:建築会館ホール、他
テーマ:地域の建築が持つ意匠的特徴をどのように継承しつつ、現代的な機能を満たせるか?
ゲストコメンテーター:馬場正尊|Open A、西田司|オンデザインパートナーズ
【登壇者】
西山広志、松下晃士、森 元気、佐々木啓、鎌田友介、森本英裕、人文建築会(代表者: 岸佑)、栗生はるか、小寺 亮、小島悠揮、本瀬あゆみ
【応答文1】
現在進行形での地域らしさを意識する
(本瀬あゆみ)
我々のセッションでは、各人の地域とのかかわり方の共有に時間がかかってしまい、短いセッション中に議論を尽くせたとは言い難かった。バックグラウンドを知らない者同士だと、オンラインによる事前の議論は進めにくく、フェーズを変えた対面のセッションを少なくとも3回はする必要があると感じた。しかしながら、議論の中で佐々木啓氏より提出された、そもそも地域の意匠的特徴というものは存在するのだろうか?という問題意識は強く印象に残っている。
現在ではその問題意識を受け、いわゆる名物的な地域的意匠(合掌造りなど)を無批判に消費することの無いよう、現代の機能や風景、地域の社会慣習において、その地域的意匠に妥当性があるかどうかを検討した上で採用するようにしている。その一方で、論理構成の純粋さに縛られることなく、意匠の表層的な機能も忘れずに評価し、活用していかねばならないとも思っている。また、形の意匠だけでなく、計画的な視点で見た時の現代的な「地域性」があるのではないかと感じており、今後分析していきたい。
本瀬あゆみ
東京藝術大学美術学部建築科卒業、東京工業大学大学院藤岡洋保研究室修了。隈研吾建築都市設計事務所勤務を経て、東京と富山にて本瀬齋田建築設計事務所を主宰。滋賀県立大学、金沢工業大学、東京藝術大学にて非常勤講師。
【応答文2】
「地域の建築」を引き継ぐ
(栗生はるか)
「地域の建築」というものがまず何を指すのか。私が現在、フィールドとしているのは東京である。中でも人口流入が進み、日々新しいマンション開発が起こっている文京区界隈を中心としている。つい最近も駅前再開発があり、見慣れた街並みは一新された。そのような中で「地域の建築」と呼べるものを探すことは困難を極める。
幸い、文京建築会ユースという有志団体で10年程地域に入り込む活動を続ける中で、地域の歴史や人のつながりを継承する、絶滅寸前の銭湯や長屋、旅館などに出会った。それらはもう目を凝らさなければ見つからないほど、わずかにしか残っていないが、どこでも出会うことのできる定型的なマンションや商業ビルなどとは違う「地域の建築」としてしっかりと根付いている。
中には、実際に現代的な機能を入れて活用を試みているものもある。文京区の根津にて地域サロン「アイソメ」*1と名付け開放しているかつて牛乳屋であった築115年を超える長屋は、職住一体の形式を意識し、二階に住人が住めるようになっている。日常的に変わる利用者に対し、地域に対して責任を持つ固定の住人がいることで、ご近所への接続がスムーズになされている。
また、地域は変わるが北区の滝野川稲荷湯という銭湯に併設するかつての従業員用の築100年ほどの長屋を地域に開いた場所になるよう改修中だ*2。二軒長屋は、一軒を当時の暮らしぶりがわかる形で再生し、もう一軒分を現代に即した用途で使いやすいように改修する予定だ。
「地域の建築」と呼べるものが、いかにして地域の景色を担ってきたか、地域を構成する一部としてどう振る舞ってきたか・・・前述の根津の長屋は、長く祭礼時の神酒所として機能してきた地域の人々の拠り所になる場所だ。その役割を維持するために、1階は地域に開いたサロンとし、当初からの開放的な間取りはそのままに活用している。
つまり、そこの場所の地域における役割を汲み取り、引き継ぐべき部分、採用するべき良さを継承しようとすることで、自ずと生かすべき意匠的特徴が見えてくる。既にある環境や空間に対し「こういう機能を入れたいからこう改修すべき」という従来の発想とは違う手法を模索できたらと思う。
また、地域の人々に愛された銭湯や喫茶店など、廃業、解体が続き継承することすら困難な建築に関しては、仕方なしに、一部の部材や特徴的な備品を引き取っている。それらは、理解あるオーナーの元、前述の根津の長屋や、「Up cycle salon 白山倉庫」*3と名付けた倉庫にて、一部活用しながら保管をしている。
加えて、溜まった銭湯の部材で「銭湯山車」*4という山車を仲間と共に作り上げた。消えていった銭湯の面影を元に、東京の銭湯の典型と言える意匠的特徴を継承しながら再構成をしている。今夏、それを都内の様々なエリアに出没させ、巡行を行った。地域で残せず解体されてしまった「地域の建築」が、自ら動き回ってその存在感を主張する試み。出来上がったものは「山車」という晴れやかな産物だが、その場所を大切にしてきた人々の悔しい思いや、忘れてはいけないものを突きつける、都市の乱開発に対する怨念めいたものを内部に秘めている。この代謝の早い東京において、せめてもの抵抗であり、一種の可能性でもある。
前回のパラレルセッションでは文京建築会ユースにて考える「まちつぎ」というテーマを紹介させてもらった。 「まちつぎ」という造語には、まちを継承する「継ぎ」、人やものをつないで新たな価値を見出す「接ぎ」、そして次世代の姿を共に考える「次」といった三つの意味が込められている。
上記の事例は、どれも「まちつぎ」の一環である。「地域の建築」の継承を考える際に大切なのは、意匠的特徴のみならず、同時にそこに存在する地域の人々の思いや蓄積された物語をどう引き継ぐか。特に東京のような建築が非常に不確かな存在になってしまっているエリアにおいての「地域の建築」に対する意匠という表面的な継承にとどまらない眼差しが、現代的、未来的な機能を満たす可能性があると感じる。
*1 アイソメ
設計:モザイクデザイン 設計協力: 山村咲子建築アトリエ
企画協力: 文京建築会ユース、たいとう歴史都市研究会
グラフィックデザイン: 藤井北斗/hokkyok Photo Credit: 藤本一貴
*2稲荷湯プロジェクト
企画:せんとうとまち 設計協力:きよたけ建築工房
(アメリカン・エキスプレス、ワールド・モニュメント財団の支援を受けて)
*3 Up cycle salon 白山倉庫
設計:Mosaic Design(中村航・栗生はるか・Lucia Filippini・Kim Taehyung)
設計協力:JAMZA(猪俣直己・長谷川駿)
企画・運営:文京建築会ユース + Mosaic Design + ツツミエミコ + JAMZA
VI:hokkyok(藤井北斗)
施工:株式会社ダブルボックス(和田重文・灰田務・田邉龍平)
*4銭湯山車
文京建築会ユース+銭湯山車巡行部(栗生はるか、三文字昌也、内海皓平、村田勇気)
栗生はるか
1981年生まれ、早稲田大学理工学部建築学科修了、現在、一般社団法人せんとうとまち 代表理事、文京建築会ユース 代表、法政大学江戸東京研究センター 客員研究員