Session10 – 建築行為を日常化するための技術は何か? –

2016 参加汎用性生産自発性

日時:2016/10/9  18:00〜19:00
会場:建築会館ホール、他
テーマ:建築行為を日常化するための技術は何か?
ゲストコメンテーター:馬場正尊|Open A、西田司|オンデザインパートナーズ
登壇者:岩岡孝太郎、中村俊哉+藤井愛、清水靖真、篠元貴之、西野雄一郎、柿木佑介、水野太史、細谷悠太、吉川晃司、伊藤智寿、佐藤布武


 

【応答文1】
地平の先のファースト・ネイチャー
(岩岡孝太郎)

今、飛騨の森の端でこの文章を書いています。

パラレル・プロジェクションズ(PP)2016の頃を思い返すと、当時、飛騨に来て1年強、FabCafe Hidaをオープンさせて間もない頃でした。それから森林資源、特に広葉樹素材に向き合って挑んできたわけですが、具体的に振り返ってみると、木目を読んだ板材の再構築、1000を超えるユニークな木製ピースのデジタル制御、ロータリー加工による透過する木膜、未利用材を原料としたチップボード開発、チップボードの地層のような積層塊、曲木技術を応用した極薄な波型構造物、根曲りした木の3DスキャニングとARファブリケーション、森そのものの3Dデータ化、などなど、文字で表現すると単なる行為・物体の列記にすぎないのですが、まさに当時PPで掲げたコークリエイションによって一つずつ実践・実作を重ねてきたものです。

僕が今尚、森に対する強い関心を寄せているのは未だ解読できていない情報が大量に含まれているからだと感じています。森本来の有機的で複雑で多様で連環で繋がっている様相には憧憬すら覚えます。自然に対する本能的な希求から、マクロな森、ミクロな森、そこでの現象を人為的に表現し、もう一度森と人との繋がりを評価したり回復するセカンド・ネイチャーという考え方があります。この考え方と対比し、僕らが進んできたデザイン行為の延長上にある第二の自然を越えた地平の先にあったのは、ありのままの自然を対象としてデザインする『ファースト・ネイチャー』でした。これは自然回帰とはベクトルを異にする、多量な情報を処理したり、単純化せずに扱い、連環を断ち切らずに保持する能力を得た現在だからこそ向かえる場所です。未来の森と人との繋がりをデザインするため、今日も誰かと森にいます。

僕らはファースト・ネイチャーへの取り組みを加速させるため、来年に向けて新たに『morinoha(森の端)』と呼ぶ施設・設備とフィールドの開設を準備しています。皆さんと森に入れる日を楽しみにしています。

岩岡孝太郎
1984年生まれ、慶應義塾大学大学院SFC修了後、現在、株式会社飛騨の森でクマは踊る(ヒダクマ)代表取締役


 

【応答文2】
日常的な建築行為をひき起こす建築を目指して
中村俊哉+藤井愛

「建築行為を日常化する技術は何か?」というテーマのもと、様々な活動をするメンバーと対話してから丸5年。
現在は、2016年のパラレルプロジェクションズで展示した設計物に、自ら住む機会を頂き3年半が経ったところだ。庭を通じて外部環境との距離感を捉え直し、心地良くまちに住まうことを考えた住宅である。実際に住んでみると、建築的アイデアがうまく機能していて、程よい距離感でまちとつながり、周りの住民の方々ともとても心地よい関係で暮らすことができている。

快適に暮らしているのだが、日々何かしら手を加えたりメンテナンスしたりもしている。もちろん時間をかけて丁寧に隅々まで設計したし、この建築に対して何か不満や不足を感じている訳ではない。日常を過ごすことでみえてくる小さな気づきに合わせて、チューンアップしている、という感じに近い。

日々、暮らしに必要なモノやコトが湧き出てきて、その都度知恵をしぼる。暮らしの中でアイデアが生まれ、ひと手間を加えてみる。その小さな行為を建築と呼べるかどうかはわからないが、「楽しく生きる」ことに向かっていることは確かだ。

しかしそんな生活を続けていると、近隣の人たちからも小さな相談事をよく受けるようになった。自分達の暮らしだけでなく、周りの人の暮らしをも含んだ、まちでの暮らし。それぞれの暮らしや世間話の中から湧き出るアイデアを、あくまで「楽しい」範囲で手を動かす。

例えば今は、コロナで気軽に部屋の中に人を呼べないこともあり、軒下空間を子供達が気兼ねなく遊べるアトリエにできるかなとか、そうしたら今度新しく植える樹は栗の木にしたら子供達が喜ぶね、でも落葉樹だとまた落ち葉増えるね、それなら庭の空きスペースで落ち葉や生ゴミを堆肥にするコンポストプール作ろうか。といった具合。

建築が端緒となり、小さな巡りがたくさん生まれているのを実感している。巡りが良くなると、そこからまたひとつの関係性が芽吹き、それが新たな巡りを生む。建築のかたちや空間が端緒となって、住人の私たちやまちの人に積極的な関わり合いや日常的な建築行為をひき起こしている、とも言えそうだ。

暮らしの中でデザインし続けることと、建築をつくることはメビウスの輪のように連続していると感じている。日常的な建築行為をひき起こす端緒となるような建築を、たくさん関係性の芽吹きのある建築を、これからも目指していきたい。

中村俊哉
東京都生まれ。2007年 早稲田大学建築学科卒業。2009年 早稲田大学大学院修了。芦沢啓治建築設計事務所に勤務したのち、2014年にship architecture一級建築士事務所を共同設立。

藤井愛
京都府生まれ。2008年 大阪芸術大学建築学科卒業。2011年 早稲田大学大学院修了。畝森泰行建築設計事務所に勤務したのち、2014年にship architecture一級建築士事務所を共同設立。

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