2017/4/3
「共創都市をめざして〜経験としてのパラレルプロジェクションズ〜」 |西田司(オンデザイン)
持ち寄られた素材も、日常的に実践しているものばかりなので、彼らの生き方に触れる時間であった。
この「生き方」と建築は、密接に紐付いている
最近僕が興味を持っていることに「ギャザリング」がある。これは平たく言うと「持ち寄りパーティ」なのだが、大きなテーブルでゲストが持ってきてくれたお土産を並べ(チーズやフルーツや生ハムやベジタブルが)卓上を彩り、ゲストの個性がそのままテーブルの要素になり全体の風景を作っている。パラレル・プロジェクションズは、食を建築に変えた、まさにギャザリングだった。ギャザリングの良いところは、シェフが創作するフレンチや和食のパーティと違い、型がない。(実際は型がないわけではなく、テーブルのサイズや、呼ぶゲストや、その時の食材やスタイリングにより有機的に変わることを皆が楽しむ形式だ。)決められた型や、シェフのサービスを享受することも変わらない価値である一方で、自分も参加者であると同時に創作者である時に、その風景や全体を構成する要素(カスタマイズできる立場)であることを許容される寛容さが嬉しい。途中でテーブルに入ることも、抜けることも出来、絶えず形を変えている卓上は、情報(レシピ)や空間をシェアすることが当たり前の時代だからこその、皆が作ることも食べることも話すことも楽しめるオープンでフラットな場となる。
今回僕がゲスト参加したパラレルセッションのテーマは、複数拠点、建築教育、危機管理、地域の建築、建築行為の日常化の5本だった。もう一人のゲストが馬場正尊さんだったこともあり、(困ったら馬場さんに振れば良いくらいの気軽な気持ちで)ほとんど準備せずに参加したが、これが最高に楽しかった。これまで僕が呼ばれるシンポジウムの多くは、はじめにゲストの事例紹介があり、そこに重ねる形で後半のトークがスタートする。これはゲスト側にしてみると予定調和な部分が多く、トークも自分のフィールドに引きつけて話すので過去に披露している型を使用する感覚がある。(勿論、聞く側からすると、安定感があり、整理した話を効率的に聞ける良さがある。)対して、このテーブルトークは、全く予定調和がなく、まさにパラレルに現在進行形で動いているプロジェクトを素材に、卓上に集められた共有可能な有機物を皆で全体像として整えている感覚だった。変な言い方だが、自分のコメントも素材のひとつなので、ちょっと試されている感じもあり(集中して答えないと、常に流動的なテーブル上が崩れてしまいそうで)動いている議論に途中から乗り、自分とつながる価値を探りつつ、新しい発見と、異なる世代の価値に揺さぶられ続ける時間であった。持ち寄られた素材も、日常的に実践しているものばかりなので、彼らの生き方に触れる時間であった。この「生き方」と建築は、密接に紐付いている。例えば複数拠点のセッションでは、実際に設計拠点を複数持っている参加者が多く、(それは国内に留まらず海外も含むのだが)複数あるからこそ気づける設計の作法を語る。それは生活体験も地続きで、これまでの建築家が都市に居を構え、机上で遠隔地の設計をしてきたのに対し、地域と自身とのハイブリッドを楽しんでいる感じを受けた。きっと彼らの中では仕事と生活のスイッチングが絶えず起こり、自身の生き方から、その地域ならではの建築や建築行為を逆照射しているのであろう。逆に地域の生活者や設計者以外の主体がコミットメントしている事例が語られていたのが日常化のセッションだ。この設計や建築行為がひらかれていく議論は大変興味深い。建築が一人の設計者の範疇を超えてつくられていく可能性やそこへのアプローチは、これまでの大文字の建築家が大切にしてきた作家としてのクレジット(責任主体としての署名性)さえもオープンにしている。クレジットやバリューも仲間や地域と分け合い、そこから派生した思いもよらない展開すらも自分ごととして楽しんでいる感じは、パラレル・プロジェクションズそのものだった。
「一人ではできない事象も、みんなが集まれば何か始まっていくのではないか」という会場を覆っていた雰囲気は、決して一人一人が弱い訳でも、独立独歩が寂しい訳でもなく、常に建築の内外と対話し、これから始まる新しい取り組みや価値に常に触れていたいという探究心なのではないか。この会場で得た感覚を僕自身も持ち続けていたいと思った。
西田司(建築家/オンデザイン)
使い手の創造力を対話型手法で引き上げ、様々なビルディングタイプにおいてオープンでフラットな設計を実践する設計事務所オンデザイン代表。建築分野におけるコミュニケーションの可能性を探る実践をおこなっている。 主な仕事として、「ヨコハマアパートメント」(JIA新人賞、ベネチアビエンナーレ日本館招待作品)、「ISHINOMAKI 2.0」(グッドデザイン復興デザイン賞、地域再生大賞特別賞)、島根県海士町の学習拠点「隠岐国学習センター」。近作として、横浜DeNAベイスターズがつくるスポーツXクリエイティブをテーマにした横浜の創造拠点「THE BAYS」など。