Session13 – 豊かさと汎用性を併せ持ったエレメントの開発は可能か? –
日時:2016/10/10 15:30〜16:30
会場:建築会館ホール、他
テーマ:豊かさと汎用性を併せ持ったエレメントの開発は可能か?
ゲストコメンテーター:青木淳|青木淳建築計画事務所
登壇者:小原えり、大野竜也、金田泰裕、森藤文華+葛沁芸、山田織部、笠島俊一、山口陽登、Sébastien Martinez Barat & Benjamin Lafore、松澤広樹、山口 純、藤田雄介
【応答文1】
まだ見ぬエレメントに向けて
(藤田雄介)
テーマが意味することを改めて考えたい。豊かなエレメント、汎用性を持ったエレメントとは何か?そしてエレメントの開発というのは何を指しているのか?
建築におけるエレメントとは部位のことだ。屋根、壁、床、天井、窓などなど、建築を構成し内外の境界面となる要素を指す。エレメントの豊かさとは分かりやすく言えば、高い断熱性を持っている窓とか高耐久性のある壁などが当てはまるだろう。もちろん性能だけで測れない豊かさが世界には溢れていて、われわれ建築家はそれを見出し形にすることに全力で挑んでいる。
次に汎用性を持ったエレメントである。建築は無数の汎用品の集積でつくりだされるが、プレハブを除けばそれぞれ現場で組み合わされる。例えば木造住宅の壁だと、柱と木下地があり構造用合板・透湿防水シート・胴縁通気層・仕上げ材と何層にも現場で重ねてつくられる。一つ一つの要素は汎用品だが、ビスの位置や使う要素の寸法や貼り方など、微視的に見たら実は全ての木造住宅の壁は異なるつくりなのかもしれない。そう考えるとエレメントに汎用性を持たせることは可能なのか?
そしてエレメントの開発である。例えば、建築部品は日々さまざまなメーカーが開発し製品化している訳だが、ここで考察すべきなのはそういうことではないだろう。エレメントを開発するというのは、慣習的な部材の組み合わせを変えて、より良い屋根や壁や床をつくることではないか。それは設計者が、現場ごとに納まりを考える行為に近いようにも思う。
このようにテーマを検証していくと、建築のつくり方が固定化していないかを問われていたのかもしれない。一般的な納め方を踏襲し慣習的な構法に絡めとられていないか?生の現場で部材の組み立てを再検討して、まだ発見されていないエレメントが生み出せるのではないか?そんな深読みをしてしまうのは、あの時よりも色々経験した証拠なのか、ただの考えすぎなのかは分からない。
藤田雄介
1981年兵庫県生まれ。東京都市大学大学院修了後、手塚建築研究所勤務。2010年よりCamp Design inc.主宰。建具メーカー「戸戸(こと)」代表。
【応答文2】
『選択しない』ための『半自動的決定プロセスの仕掛け』について
(金田泰裕)
あれから5年、その時間以上に全人類の価値感は大きく変わった。
「豊かさと汎用性を併せ持った・・・」は、まさに皆が直面したこの「変化」に対して必要とされたものだったと思う。また、我々が出した「選択しない」という態度は、『機能の非断定、場所の非固定、移動的定住、所有の無境界性などが、それに伴ってくる概念である。これは一見無責任な態度に見えながらも、「選択する」ことで身動きが取れない状況をつくるのではなく、敢えて「選択しない」ことによって得られるクリアランスや逃げを、強度あるものと認める事で、多様であり、変化する社会に対して順応できる可能性を感じているのである。』と定義されており、パンデミックに関わらず、この5年間、様々な場で議論されてきた多様性、多拠点、危機に対する柔軟性に対して、その「選択しない」という、うまく説明しきれないモヤモヤした「曖昧な」浮遊感が、実は強度をもっており重要であることが証明された。一方で、この概念が具体的に、「建築」あるいは「エレメント」にも適応できるかどうかの設計上での実践は、「選択しない」状況(つまり恣意的に何かが決定されてしまわない、『半自動的に決定するプロセスの仕掛け』のようなもの)をいかにして作るかという態度として、個人的に、様々な場面で意識的に試みてきたように思う。これからますます促進されるであろうAIによる決定プロセスは、まさに人間が「選択すること」を放棄していく事を意味するわけだが、『半自動的に決定するプロセスの仕掛け』と敢えて言ったのは、その態度にこそ、建築の設計の中に人間性を残すための可能性があると思っているからである。つまり、2016年のセッション後のまとめで述べたように、「選択しない」ことに伴う『機能の非断定、場所の非固定、移動的定住、所有の無境界性』という、一般的には矛盾する言葉の組み合わせによって引き起こされるバグのようなものにこそ可能性があると思っているし、いまも興味がある。
金田泰裕
Structurist。2014年よりyasuhirokaneda STRUCTURE主宰。 デンマーク拠点。
参考(2016年新建築12月より)
豊かさと汎用性を併せ持ったエレメントの開発は可能か
各々のプロジェクトやスタンスを言葉にしていく中で、「瞬間の経験」、「建築の永遠性」など、未来をテーマにしたこのイベントにおいて不可欠である、建築の「時間」の在り方が整理された。
様々な区切り方ができる「時間」に対して、十分耐え得る「強度」を持つことが、建築あるいはエレメントに求められるのだ、という骨格が浮かびあがる。
つまり、時間に対する強度をもつことこそが、豊かさと汎用性の獲得を意味する。ここでの強度は、普遍的な解を導くことや、都度的対応による更新システムによって生じるものではなく、多くの選択肢を設定しながらも、しかし、何れも「選択しない」という態度を指す。機能の非断定、場所の非固定、移動的定住、所有の無境界性などが、それに伴ってくる概念である。これは一見無責任な態度に見えながらも、「選択する」ことで身動きが取れない状況をつくるのではなく、敢えて「選択しない」ことによって得られるクリアランスや逃げを、強度あるものと認める事で、多様であり、変化する社会に対して順応できる可能性を感じているのである。
また、この考えは、何か新しいものを社会に求めたり、無理に何かを付加しようとしたりする態度ではなく、既にある資源に対して、どう我々が対峙できるかを問うものでもあるのだ。
金田泰裕