Session11 – 成熟社会の余剰を資源に読み替えるための都市の仕組みや制度は? –
日時:2016/10/10 13:00〜14:00
会場:建築会館ホール、他
テーマ:成熟社会の余剰を資源に読み替えるための都市の仕組みや制度は?
ゲストコメンテーター:青木淳|青木淳建築計画事務所
登壇者:小山雄資、吉岡優一、宮城島崇人、小引寛也 + 石川典貴、中川聡一郎、中島 伸、藤賀雅人、山崎嵩拓、青木公隆、青島啓太、杉山聖昇
【応答文1】
フィールド・コンセプト 改
(宮城島崇人)
そこは完全に自発的な場であった。前のめり気味に全国から集まった参加者たちによる議論には、熱がこもる。メンバーは自身のプロジェクトを通して、それぞれが「成熟社会の余剰」と向き合っていた。リアリティのある当事者としての議論が交わされたことを覚えている。
僕たちはこれからの建築プロジェクトを、成熟社会の余剰を資源化し、その場所の持続を支えていくものであると仮定し、バラバラに見える余剰を構造化するように、建築プロジェクトを広範なモノ、ヒト、コトの連鎖と循環の中に組み込むことが必要だと考えた。そのためには物理的な範囲やネットワークを意味する「フィールド」をいかに設定するかが腕の見せどころで、そこから単体の建築を超えた「フィールド・コンセプト」を描くことの重要性を主張した(新建築2016年12月号)。
単体の建築を超えたコンセプトの重要性はより高まっている。建築はその存在の根拠をより厳しく問われるようになってきたからだ。一方で、当時僕が気づいていなかったことは、ある主体からみた余剰は、別の主体からみたら必ずしも余剰ではないということであり、余剰の構造化の仕方も主体の数だけ存在しうる、ということだ。つまり、「フィールド・コンセプト」は、決してなにかを統合するためのコンセプトではないし、あるフィールドを手がかりに、主体ごとに自由なコンセプトを述べられること、そしてそれら複数のコンセプトが共存できることの方に実は意味がある。もし、フィールド・コンセプトの優劣の意味するところが、なるべく多くのことを上手に説明できるフィールドの設定、と思ってしまったなら、それは大きな間違いだ。ここに当時の違和感の原因があった。
アーキテクトは、どんなに小さな主体にでも寄り添うことができ、概念として大きく“プロジェクト”することができる。これはつい先日、ある社会福祉法人の代表から聞いた、「町にひとり、ある障害を持った子がいる。その子が生きていける仕組みをつくりたい。」という話と似ている。だから、小さな主体をそれぞれに後押しするようなアーキテクトの活動を尊重したい。コロナ禍のごたごたを見るまでもなく、僕らの社会は成熟なんかしておらず、不足や不在ばかりであったことを痛感した。余剰は見えかかっていたが、肝心の不足や不在が見えていない。目を凝らしてそれらを見据え、自らが寄り添う小さな主体ごとに、矛盾をも含みこんでしまうような、大胆な「フィールド・コンセプト」を描くのだ。
宮城島崇人
1986年北海道生まれ、東京工業大学大学院修了後、ETSAM奨学生、北海道大学大学院国際広報メディア・観光学院博士過程を経て、現在、株式会社宮城島崇人建築設計事務所代表取締役
【応答文2】
都市の漸進的変容を促す「せんつく」
(青木公隆)
2016年の参加当時は、茨城県取手市と足立区千住地域の2拠点で活動をしていた。両地域に共通する成熟社会の余剰である空洞化した都市・建築において、空き家の再生や衰退したコミュニティーの再構築を、建築を通して如何なる手法で実現するかが問題意識であった。
現在は、都市部の小規模建築群地域における新たな都市デザインを実践している。2年程前から千住地域にて「せんつく」※1という半公共的な小規模複合施設の運営に着手し、10年という長期的な時間軸で、10棟を地域に介入するプロジェクトを進めている(現在は1棟目の運営、2棟目の設計、3棟目の案件の検討中)。改修費用から維持管理費用まで自社事業としてマネジメントし、「せんつく」のイベントによる建築物や空地の活用方法、「せんつく」入居者からの日常の地域情報や要望、地域住民の反応などを、次の「せんつく」の設計や運営に向けた与件として入力する。新たな入力があれば、既存の「せんつく」も含めて、改変を繰り返すという連続的で柔軟な仕組みである。また、「せんつく」-「せんつく」、「せんつく」-都市というネットワークの入れ子構造により(図参照)、与件の入力の解像度を上げ、半公共的な機能・長期的な時間軸・分散的な介入というコンセプトを強化することで、都市に新規の広範なネットワークを築き、既存の社会課題を解決に向けた都市の漸進的な変容を促す。
私が参加したセッションでは、「フィールド・コンセプト」が提示された。無数の余剰に構造を発見し、連環に組み込み、表現・共有するためのコンセプト※2である。都市との与件の出入力を繰り返し、変化し、ネットワークを築く「せんつく」という都市設計の概念が、「フィールド・コンセプト」と同義であるかもしれない。今現在、都市の仕組みや制度に対する答えはまだないが、一施設を超えて、概念としての「せんつく」が都市における新たな制度や仕組みを構築する道標となりうるよう今後も実践を続けたいと思う。隅田川と荒川という都市の明確な境界がある地理的条件をもつ千住地域であるから可能とも言える地域特化型の方法論を、まずは、都市部に広がる小規模建築群地域の再構築に向けた有効な方法論となりうるまで高めたい。また、現在は、ネットワーク論や都市的思考が強い取組みであるが、近い将来には建築の設計論を提示したいと考えている。
せんつく01と、改変を繰り返している第3世代の外構
図_「せんつく」による都市の新たなネットワークの入れ子構造
※1 「せんつく」1号には、飲食店・料理教室・雑貨屋が入居し、外構には地域住民が自由に利用可能な公共空間を整備
※2 宮城島崇人(2016)「新建築2015年6月号p53」に基づき、筆者により編集。
Photographs | @Ookura Hideki / Kurome Photo Studio
青木公隆
1982年生まれ テキサス州出身。東京理科大学工学部建築学科卒業、東京大学大学院工学研究科建築学専攻修了。株式会社日本設計を経て、2012年 (株)ARCO architectsの設立。以降、東京理科大学工学建築学科製図補手、東京藝術大学社会連携センター教育研究助手、柏の葉アーバンデザインセンター(UDCK)建築・都市ディレクターを経験。特定地域における都市デザインや社会問題である空き家に対して建築を通した取組みを続ける。現在、東京大学大学院にて都市デザインに関する博士論文を執筆中。主な作品として、東京都足立区千住地域における都市デザインと「せんつく」があり、日本不動産学会業績賞,都市住宅学会賞業績賞,日本建築士連合会まちづくり大賞候補を受賞。