Session14 -地方都市空間における教育価値を最大化するためのプロジェクトとは?-
日時:2017/10/22 15:00〜16:00
会場:建築会館ホール
テーマ:地方都市空間における教育価値を最大化するためのプロジェクトとは?
ゲストメンター:菅沼聖|山口情報芸術センターYCAM
登壇者:加藤正紘、田中一吉、佐々木雅宏、勝亦優佑、市川竜吾、津川恵理、葛沁芸
【応答文1】
大都市の中の「開拓地」にてプロジェクトを行う
葛沁芸
2017年は地方都市空間をテーマとしたセッションに参加し、勝亦優佑さんの静岡でのプロジェクトの事例などを参照しつつ議論が展開した記憶がある。2018年に参加した際にも、私の福井県おおい町でのフィールドスタディの経験をシェアしながら、利用可能な一軒の空き家を実際に使って、どのようなプロジェクトが行えるのか、というトピックを足がかりに議論をした記憶があり、パラレル・セッションズ では「地方」や「ローカル」について考える機会が多かったように思う。
今年は東京ビエンナーレ2020/2021という東京のなかの「地域」を舞台にした芸術祭に携わった。新型コロナウイルスの流行に伴う自粛期間とプロジェクトの期間が重なり、地方都市に実際に行く機会が減り、また首都圏においても細分化され行政区を跨いだ移動が制限される中で、大都市の中の「ローカル」を考える機会となった。
ある日、ふと東京湾の地図の中に見つけたのは、臨海の埋立地で最終処分場でもある広大な3km四方の人工島、かつては住所も無く青海三丁目地先と呼ばれていた、見知らぬ土地であった。東京都の23区のゴミはすべてここに集積され、埋め立てられている。正しくここは東京における人々の営みが生み出した土地であり、五輪の会場ともなった場所だが、ここを訪れたことのある人は殆ど誰もいない。そんな場所を取り上げたプロジェクトを行った。
人の気配が希薄で用途も曖昧な過渡期的土地の可能性を探ることを通じて、環境問題や都市と建築の問題に止まらず、多角的に相互教育が行われるプラットフォーム、そして実験の場としての可能性を強く感じた。それは人口が減少へと向かう地方の都市空間とも通ずるものがあった。東京の中の知られざる「一地方」であったこの場所を、我々の実世界と結びつけること自体が、当日の議論に参加した菅沼聖さんの言う「アート・センタード・イノベーション」となっていたならば嬉しいが、どうであろうか。
私の生産行為が大地を創り出し、それによって拡張された都市空間がまた私の基盤となってゆく。私と公共との循環関係。このことを自覚しつつ、今後もこの土地と関わり、考えて続けていきたいと思っている。
葛沁芸
1988年、中国・蘇州生まれ。一級建築士。2012年早稲田大学創造理工学研究科建築学専攻修士課程修了。藤本壮介建築設計事務所にてbus stop:krumbach、Mirrored Gardens、 Whale museum、Vogue Woman of the Year 2013トロフィーなどを担当。2013年より2.5 architectsを共同主宰する。建築のみならず、アート、デザインと活動の場を広げている。建築史の研究者として中国/西洋建築についての研究も行う。早稲田建築設計賞受賞(2012年)、日本建築学会・建築書と建築理論特別研究委員会委員(2017~18年)
【応答文2】
知恵と技術の交換をうながす
(市川竜吾)
現在の実感に照らしてみると、この問いには違和感と物足りなさがある。人口の減少と都市への集中や、近年の都市政策などによって、日本では中央も地方も、各々に固有の課題を抱え、同時に各々に新たな都市空間の可能性を示している。つまり、この問いの先には「さまざまな都市空間“相互”のまちづくりや建築の果たす、波及効果を最大化するためのプロジェクトとは?」というメタな問いが立ち現れるのだ。コロナ禍を経て、都市空間も更なる変容にさらされている今、中央と地方の区別なく、相互の波及効果こそが問われているのではないだろうか。
筆者は、2018年から2020年まで、東北地方で東日本大震災の復興コミュニティ広場の整備を中心としたまちづくりプロジェクトに建築家・大学教員として参加した。そこでは、東京と静岡から現地を訪れた専門家と大学生らが住民と共に、なにげない漁村風景の価値や地域に潜む空間資源を評価・再定義し、それらを元に、住民たちのワークショップによって広場とまちづくりの計画が構築されていった。計画されたが実装され得なかった仕掛けや空間は、住民らによって引き続き手作りされ、ささやかな相談が続いているようである。また、地域固有の季節行事や小さなたくさんのニーズの合成と、鳥獣の食害など固有の生態系の発見を含む、計画プロセスと空間デザインは、来訪者である私たちにも多くの学びをもたらしてくれた。
このプロジェクトの最大の成果は、広場のデザインやまちづくり計画の合意形成ではなかったのかもしれない。プロジェクトの参加者の間に、地域社会と自然環境についての知恵と技術の交換が生まれ、共に新しい価値をイメージする経験が、多様なワークショップとフィールドワークによって繰り返し肉体化されたことが、とても重要であったと感じている。そう、今後も参加者たちは、各々の都市の課題と可能性に、各々で立ち向かっていくのだから。
来訪者を含む参加者・地域社会・自然環境との間に、知恵と技術の交換によって新たな価値を創出するようなプログラムが、地方都市空間において教育価値を発揮し、都市空間相互の波及効果を最大化するにちがいない。
市川竜吾
1980年生まれ、東京藝術大学大学院修了。東京藝術大学教育研究助手、東京都立大学助教を経て、現在 東京都立大学都市政策科学研究科 博士後期課程。乾久美子建築設計事務所を経て、現在、市川竜吾設計事務所 代表、トミトアーキテクチャ チーフアーキテクト。