Session25 -ローカル・プロジェクト・メディアの相互作用とは?-
日時:2018/10/21 15:00~18:00
会場:建築会館ホール
テーマ: ローカル・プロジェクト・メディアの相互作用とは?
登壇者:吉川 晃一/濱本 真之(オンデザイン)、王 聖美(建築倉庫)、藤谷 幹(創造系不動産)、伊藤孝仁(tomito architecture)、重松克弥(五十嵐千寛・鈴木啓生)(NPO法人 街角再生プロジェクト)、森藤文華 + 葛沁芸(2.5 architects)
【応答文1】
メディア・応答・同時代
(王 聖美)
パラレルセッションズ2018には、建築文化を発信する展示施設の展覧会企画者として参加させていただきました。セッションのメンバーは、進捗の差はあれど、遊休不動産の活用に取り組む設計系3組と、情報発信が可能な立場にあるメディア系3組という構成でした。
まず、森藤文華さんと葛沁芸さん(2.5 architects)の古民家リノベーション、伊藤孝仁さんの日の出駅界隈の空き家群の改修、重松克弥さんの浜松市市街地の雑居ビルの再生とスペースの運営といったプロジェクトは、当時いずれも進行中の未発表案件であり、ゲストの高橋寿太郎さん、川添善行さん、菊地マリエさんとのディスカッションを通じて、地域資源、二拠点居住、脱成長社会、既存の構造を疑う、などの同時代のトピックスや時代が共有する価値観が浮かび上がってきました。
つぎに、運営委員が、吉川晃一さんと濱本真之さん(オンデザインパートナーズ)が編集者として取り組むオウンドメディアBEYOND ARCHITECTURE、藤谷幹さんの建築家の経営思考を助けるカラーパレットを活用するスクールと並んで、展示施設あるいは展覧会を生のメディアとして位置付けてくださったのは励みになることだと受け止めています。ミュージアムが社会の様々なメッセージを媒介させているメディアだという考えは1980年代から存在するものですが、学芸員課程の必須科目に「博物館情報・メディア論」が加わったのは2012年、村田麻里子さんの著書『思想としてのミュージアム』が出版されたのは2014年というように、その考えが見直されたのは遠い昔のことではありません。パラレルセッションズから3年が経ち、新たに訪れたウィズコロナ時代にミュージアムはどうあるべきか、まだ試験的な過程にいますが、メディアとして現代社会の代弁者でありたい、と考えています。
さいごに、国内初の近代美術館を鎌倉に設計した坂倉準三は、美術館活動の同時代性を強調しこのような言葉を残しました。「新しい現代美術館に於ては陳列されているものはたとえ昔のものであつてもすべて現代の中に生きているもの、現代の基盤の上にあるものである(略)」(『藝術新潮』1951年3月号)。
王聖美
1981年神戸市生まれ、京都工芸繊維大学工芸学部造形工学科卒業。現在、WHAT MUSEUM(旧・建築倉庫ミュージアム)学芸員。主な企画展に「あまねくひらかれる時代の非パブリック」(2019)、「Nomadic Rhapsody -“超移動社会”がもたらす新たな変容-」(2018)ほか。
【応答文2】
ローカル戦略に基づくプロジェクト
(藤谷 幹)
ローカル化していく日本
都市は人々が集積することにより、都市インフラ・産業・文化を効率よく発展させてきた。対して、ほとんどのまちが人口減少と対峙しながらも、“ローカル”ならではの都市インフラ・産業・文化を育み、経済を回してきた。まちによってはそれこそがアイデンティティとなり、他のまちとの差別化に成功している事例も数多くある。
我が国は2008年を折り返しに人口減少社会に突入し、東京を含め、今後は全国的に人口が減っていく。『新・生産性立国論』(デービッド・アトキンソン、2018年、東洋経済新報社)でデービッド・アトキンソン氏が言及する通り、これまで人口増加によって支えられていた経済構造が成り立たなくなるため、生産性を向上させなければ、たとえ東京であろうと経済規模は縮小していくことになる。
生産性向上の戦略は、都市インフラ・産業・文化に基づいたそれぞれのまちの戦略と直結するため、これまで地方の専売特許であった“ローカル”ならではのアイデンティティは、都市においても当然求められる生存戦略になってくる。人口減少と共に、都市も“ローカル”化していく。
あるまちでは観光に特化した戦略、別のまちでは工業と共生していく戦略、はたまた別のまちでは緩やかに人口移動を促したダウンサイジングを行う戦略など、これまでも既に各地で行われている戦略が、今後はより重要度が増してくる。もしかしたらローカル化が進んでいる地方の方が、より身軽に、より先進的に、より大胆に戦略を打ち出せるのかもしれない。
京都や東京など観光ポテンシャルの高い地域ではホテルの建設ラッシュが起こり、人口減少に歯止めをかけたいまちではUIJターン向けの公共住宅が活用・建設されるなど、基本的にはそれぞれのまちが描くマスタープランに沿って事業が動くように行政は予算をつけるため、今後のプロジェクトについても、益々ローカルならではの事業や他地域と差別化された企画が増えていくだろう。
(図 2040年の人口増減を表したヒートマップ 出典:RESAS)
ローカル戦略に基づくプロジェクト
あるまちでは観光に特化した戦略、別のまちでは工業と共生していく戦略、はたまた別のまちでは緩やかに人口移動を促したダウンサイジングを行う戦略など、これまでも既に各地で行われている戦略が、今後はより重要度が増してくる。もしかしたらローカル化が進んでいる地方の方が、より身軽に、より先進的に、より大胆に戦略を打ち出せるのかもしれない。
京都や東京など観光ポテンシャルの高い地域ではホテルの建設ラッシュが起こり、人口減少に歯止めをかけたいまちではUIJターン向けの公共住宅が活用・建設されるなど、基本的にはそれぞれのまちが描くマスタープランに沿って事業が動くように行政は予算をつけるため、今後のプロジェクトについても、益々ローカルならではの事業や他地域と差別化された企画が増えていくだろう。
共感を生むためのメディア
長きにわたりメディアの主役は、新聞・雑誌・TVといったいわゆるマスメディアがその役割を担ってきたが、昨今、メディアはSNSを中心にコモディティ化し、マスから大衆に発信源が移り変わりつつある。同時に、メディアの役割は情報伝達以上に批評や風刺という役割を果たしてきたが、コモディティ化したメディアではより幅広い個人の考えを発信し共感を獲得するという役割を担っている。
こうしたメディアのコモディティ化は、多様性を求める社会とは親和性が高い。絶対的な価値基準ではなく、情報や媒体の選択肢が増え、発信側も受信側も個々のものさしで取捨選択しやすくなるためだ。
これは前述したローカルならではのプロジェクトとの親和性も期待できる。人口減少が進むと地域内経済を循環させるだけでなく、地域外からの「地域外貨」を如何に稼ぐかということが求められる。ローカルならではのプロジェクトを地域外に届けるには、プロジェクトの独自性・魅力をメディアに載せて発信し、たくさんの共感を獲得することが手っ取り早い。コモディティ化しているが故に、どのメディアにどのような方法で発信するのかというPR戦略はより重要度を増していくと共に、ローカルならではプロジェクトの大きな推進力となるだろう。
藤谷 幹
1990年生まれ、首都大学東京大学院 饗庭研究室修了。設計事務所勤務の後、現在、創造系不動産マネージャー