Session12 – 都市の持続に寄与する地域空間のマネジメントとは何か? –

2016 シェアマネジメント開発

日時:2016/10/10  14:15〜15:15
会場:建築会館ホール、他
テーマ:都市の持続に寄与する地域空間のマネジメントとは何か?
ゲストコメンテーター:青木淳|青木淳建築計画事務所
登壇者:冨永美保、植野聡子、森 純平、白石卓央、松田孝平、鬼頭朋宏、市村良平、沼野井諭、大武千明、石野啓太、香月真大


 

【応答文1】
地域空間をマネジメントするコツのようなものと、近況
(市村良平)

パラレル・プロジェクションズ(2016)に参加してから5年が経ち、その間に社会は大きく変化した。なかでも新型コロナウイルス感染症の世界的な拡大は、あらゆるものに影響を与え、いまも社会の変化を加速させている。5年前に挑んだテーマ「地域空間」という視点で見ても、その利用形態は変化しながらニーズが高まっているように感じる。

非接触、非対面が推奨されたことで、リモートワークが普及し働き方も多様で流動的になっている。これまでの「決まった場所で、決まった仕事」という考え方が変わりつつある。加えて、感染リスクが高い(と思われる)都市部からの地方移住も増えている。こうした背景から空き家や空き店舗を活用しようと試みるプロジェクトが多く立ち上がり、自治体は地域活性化や移住定住などの施策で地域空間の活用を加速させようとしている。事実、私の周りでも空き家や空き店舗、廃校などの活用プロジェクトやその相談が増えている。

では、そのニーズに対して地域空間のマネジメントがなされ、スムーズに活用できているかというと、未だスムーズにいかないことの方が多い。特に不動産業が機能していない地域では顕著である。利用者側の多様で流動的なニーズに対して、地域空間を提供する立場にある所有者もしくは管理者の準備が整っていないように感じる。そして、地域空間の活用に関する、より根深く、複雑な課題が顕在化してきた。

前回議論した「記憶」も、スムーズにいかない要因の一つとしてあげられる。「記憶」は住んでいた人の思い出のような非物質的なもの、もしくは仏壇のような物質的なものがあげられるが、その取り扱いが難しいという話だ。「空き家や空き店舗はたくさんあるけれど使えない」といった問題は、こういう理由からも起こっている。さらに課題は幅広く、ハード面ではシロアリ被害や建築構造上の問題、ソフト面では仲介する不動産業が機能していない場合の契約書の作成など手続きの面倒くささもある。こんな状況では地域空間を使いたくてもハードルが高い。それでも活用したいのであれば、それなりの覚悟と時間と資金が必要になってくるが、果たしてどこまでの人が辿り着けるだろうか。

一方で、スムーズに地域空間をマネジメントできている地域もある。ある地域ではNPOなどが主体となり、まちづくりやビジネスに地域空間を活用し、ここ数年で10軒以上の地域空間(空き家や公園など)を活用している。不動産業も機能していない地域で活動するそのNPOは、過去に利用を希望していた空き家の交渉がうまくいかず、結果として物件が取り壊されてしまったという苦い経験を持つ。その経験を生かしながら、違う物件で大家と積極的なコミュニケーションを図り、前述したようなハードルをひとつずつクリアして1軒目をつくりあげている。その1軒目が地域活動のハブとなり、様々なイベントが催され、地域の賑わいに繋がっている。周辺の空き家の所有者は、その1軒目があることで活用イメージがしやすくなる。その後2軒目、3軒目と繋がり、マネジメントしているNPOには次々と地域空間活用の相談がきている。最近では1軒目のリニューアルも手がけており、2周目感も出ている。

こういった事例を見ていると「都市の持続に寄与する地域空間のマネジメント」には、地域空間が都市の持続に寄与するツールであること、地域貢献やビジネスにつながることを提示することが大事なのではないだろうかと思う。大事なことは「可能性の提示」である。まちづくりでは、しばしば、事業をうまく進めるコツとして「小さくても良いからひとつ事例をつくること」が言われる。周囲の人たちのイメージがつき、進めやすくなるからだ。地域空間についても同様に「理解できないものに貸すことはできない」という想いを、地域貢献やビジネスにつなげて実践し、地域空間の有用性を示し続けることで、所有者や管理者のハードルを下げることにつながるのではないだろうか。

余談ではあるが、最後に自分の近況についても少し話してみたい。

ここまで話したような地域空間をマネジメントするコツが見えてきたこともあり、自分でも何か始めてみようと、戦後に防火建築帯として建てられた古ビル2階の一角にギャラリーを併設した事務所を構えてみた。地域空間に一つの可能性を提示できればと、業者の手を借りながら、半分はDIYで整えた。オープンしたばかりで、示唆的なことは何も言えないが、古ビル特有の雰囲気と新しく整えられた空間は、来場する人たちに新鮮な気持ちを与えている。地域空間に新たな風を通し、周辺地域に貢献できればと思う。ここから「都市の持続に寄与する空間のマネジメント」を実証していきたい。

 

市村良平(市村整材/株式会社サルッガラボ)
企画・プロデューサー。1986年生まれ。島根県益田市出身。鹿児島県在住。鹿児島大学大学院建築学コース修了(専攻:都市計画・歴史意匠)。鹿児島市内の商業施設でコミュニティスペースの運営を行う。退社後に独立し、鹿児島県内で社会課題(中心市街地活性化、廃校活用、男女共同参画、子育て支援など)の解決に向けた取り組みをサポートする事業を行なう。地域のヒト・モノ・コトの力が発揮される環境を整えることを考えている。


 

【応答文2】
街の記憶
(植野聡子)

私のグループのセッションでは、空間から記憶をいかに剥がし、新たな創造をもたらしていくかということがテーマとなり、各地でまちづくりを実践するメンバーと、個人個人の記憶を大事にしながらも空間刷新する手法を共有したように記憶しています。

それから5年が経ち、この2年はコロナ禍において、剥がされてしまいそうな街の記憶をいかに残していくかを考えることも多くなりました。そうした中で今年2月に、静岡県浜松市の「ゆりの木通り商店街」の活動として『ゆりの木の情景』という映像作品を制作しました。多様な文化芸術に明るい商店主やお客さんが多いこの商店街特有の日常を記録したいと思いから、商店街店舗のお客さんであり音楽活動をしている方々が、各店内で演奏する様子をミュージックビデオシリーズとして発表しました。制作期間は2ヶ月ほどで非常にタイトでしたが、この街の日常を記録するプロジェクトであるからには、商店街に日常的に関わる多様な人で構成されることや、商店街が満遍なく映し出されることが重要と考え、自分自身に下記のルールを設け、三組の演奏者とそれぞれ作品制作に取り組みました。

 1. 各店のお客さんである演奏者、制作部も商店街のお客さんであること
 2. 店舗の位置が偏らないこと
 3. 制作に関わる人のジェンダーバランスが平等であること

日頃の関係性もあって、制作スタッフや演奏店舗は順調に決まったのですが、演奏者が一組だけなかなか決まりませんでした。ジェンダーバランスを考えると、その一組は女性の演奏者でなければならず、かつ商店のお客さんで、スケジュールの中で演奏してもらえる人、、、と該当する人はますます限られていきました。幸いにも、この条件に該当する方と交渉ができ、自分で勝手に掲げたルールを達成した上で制作がすることができたのですが、この時感じた苦労は、これまでジェンダーバランスを顧みず活動してきたことを反省する機会となりました。

ジェンダーに拘ったのは、商店街の活動やプロジェクトには女性も多く携わっているのにも関わらず、表立って見えるのは男性が多い状況を変えていきたいと考えたからでした。自分自身を振り返っても、例えば、レクチャーのゲストをオファーするときやプロジェクトチームを作るとき、全てもしくは大多数が男性のことが多くありました。趣旨に沿った人選であれば、男性でも女性でも構わない、という態度でいると、今回の人選で男性が先に決まったように、そういった場に慣れている男性が自然と多くなっていったのだと思います。そして、場慣れした男性がまた別の現場で呼ばれていくという連鎖によって、自分も女性でありながら、女性が呼ばれる機会を奪うことに加担していたのではと考えるようになりました。 

実際、今回のプロジェクトで女性の演奏者を探すということは、何か大変な苦労したわけではなく、少し粘り強く動いてみた程度のことなのですが、その少しの粘り強ささえ怠けていたのだと自省しています。まちづくりにおいて、女性に限らず、外国人や障害者など社会的にマイノリティーとされる方々が参加する場面は少なく、ゆえに「女性」「外国人」「障害者」と括弧付きで扱われることも多くあります。括弧を外して一人の個人として街の記憶が語られるには、数のバランスをはじめとして、さまざまな前提条件から再考し、実践していく必要があると感じています。

植野聡子
1985年 静岡県伊東市生まれ。静岡文化芸術大学空間造形学科卒業 同大学院デザイン研究科修了。まちづくりに関する企画や編集、マネジメントなどに携わる。

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