Session18 -都市のアイデンティティを活性化させる情報環境の実装とは?-
日時:2017/10/22 16:00~17:00
会場:建築会館ホール
テーマ: 都市のアイデンティティを活性化させる情報環境の実装とは?
ゲストメンター:松川昌平|000studio主宰、慶應義塾大学環境情報学部准教授
【登壇者】
大西陽子、瀬尾浩二郎、藤原香奈、田中正道、大沢雄城、永井大輔、勝邦義、須藤剛、栗本賢一、和田徹、大山宗之
【応答文1】
偏差のスケール
(須藤剛)
パラレルセッションズには3回ほど参加させていただき、毎回建築とその周辺の様々な分野の方とラウンドテーブルで議論し、思考を深めることができた。自身の思考を相対化でき、新しい思考の発見があり楽しい場であった。
「都市のアイデンティティを活性化させる情報環境の実装とは?」というテーマの会では、世に言う観光資源のない地方都市のような場所でも観光は成り立つのかということについて考えたことが印象に残っている。そこでは観光のスケールに見合った偏差があればよく、それをどう育てるかというような話がでた。ある地域では鯖缶の消費量が周辺の地域より突出して多いみたいな些細なことも資源になりえるかもしれない。100万人を呼び込む観光と、千人を呼び込む観光には当然その資源のスケールが異なり、そのスケールにあった偏差が必要だ。この偏差を抽出しコンテンツやコンセプトとして深化させるということは、今でも私にとってなにかを考えるきっかけとしてとても大切な視点となっている。
須藤剛
1980年生まれ 須藤剛建築設計事務所代表
【応答文2】
都市のアイデンティティを活性化させる情報環境の実装
(大西陽子)
都市のアイデンティティを活性化させたいとき、情報環境が実装されただけでは、真の活性化には至らないだろう。そこに住む人がシビックプライドを持って情報活用の中心となり街を盛り上げて行くのが理想だろうか。では住む人がシビックプライドを持つにはどうしたらよいか。
シビックプライドを醸成する情報環境の実装
勤めて帰ってきて、寝て起きて朝出勤。いったいいつ自分の住んでいる街に繰り出すのだと言う具合である。まちづくりに関わっているはずが自分の住む街を知らない。本末転倒である。昨今では、情報環境が整った上で普及してきた在宅ワークや時差出勤、リモートワークの効能がある。通勤がないおかげで時間の節約ができ、運動がてら住んでいる街を歩こうとなる。ここで、街を知る機会が増えると言うわけだ。
街を歩いてみるとどうか、少し未来を描くと、街の情報が至るところで獲得できる。人流データやクールスポット情報、見ごろの花や旬の野菜が並ぶマーケットの情報が無理なく得られ、足を運んでその場所、人、もの、ことを楽しむことができる。知って味わい、そこに住む人や訪れる人同士の会話が生まれることでコミュニティは醸成され、この街が好き、もっと良くしたい、何かできることは?と話が進む。
自律的な街の創造とアイデンティティ活性化
居住を基本とした場所の創造は、生活という基盤があるため進みやすい。住んでいればそこに多くの発見があり、住む人が住環境についての意見も持ち合わせていることが多い。その意見交換がオンラインでもリアルでも進むと自律的な街の創造の一歩は踏み出される。創造と共に街の情報はコミュニティに自然と蓄積される。現代ではその創造プロセスも誰しもに共有することができ、外からの評価が得られる。また多拠点居住者が増えれば、複数の街を見る目がその街の魅力をさらに顕在化するであろう。
都市の、街のアイデンティティとはなにも他とは違う優れた何かや、新しい何かでなくても良い。日常に溢れるごく普通の風景のワンシーンにあるものにすぎない。要するにその街の人々が大切にしたいものではないか。それは何か。自分の住む街に立ち返って考える。街に実装された情報環境を利用しながら、少しずつ住む街に投資する時間や街の知識を増やしていく。街について考える人の母数を増やす。街の居場所やアカウントで行政や住む人、街を訪れた人、関わりたい人が街についての会話を重ねていく。
コロナ禍を経て、街は冬籠に入ったか、はたまた新しい芽を雪の下で育てているのか、春の訪れを待たないと分からないが、変化の兆しは見えつつある。
大西陽子
1983年生まれ 九州大学芸術工学部修了後 現在、竹中工務店東京本店設計部