建築展覧会2022
STREET TOOLS
本展覧会は、ストリートにおける人の振る舞いと、社会制度/コンテクストを媒介する存在としての「ツール(ストリート・ツール)」に着目し、人々の多様な生を受け止めうる存在へとストリートはいかに変わりうるかを問います。制度をつくるほど難しくはなく、誰でも自分のできる範囲でつくることができ、場所のポテンシャルを拡張/可視化することで人の振る舞いをアシストするツールたちから、ストリートの未来を考えます。
特別協賛 | 中村製作所、ヨシモトポール |
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期間 | 10月12日(水)~17日(月)11:00~18:00(最終日のみ16:00終了) |
開催地 | 建築博物館ギャラリー(東京都港区芝5-26-20) |
キュレーター | 川勝真一(RAD共同主宰) |
企画協力 | 小泉瑛一(about your city代表) |
対象 | どなたでもご参加ください。 |
参加費 | 無料 |
申込み | 事前申込み不要。直接会場へお越しください。 |
関連イベント | ・ギャラリーツアー 1回目:10/13(木)17:00〜17:45 2回目:10/15(土)16:00〜16:45 3回目:10/16(日)16:00〜16:45 ・ギャラリー・トーク / ラジオ配信 1回目:10/15(土)17:00〜17:45 2回目:10/16(日)17:00〜17:45 ※詳細は、「STREET TOOLS」展 専用Webサイトをご覧ください。 |
詳細 | 「STREET TOOLS」展 専用Webサイト https://street-tools.com/ |
ストリートにおける人々の振る舞いと、社会の制度(コンテクスト)を媒介する存在としての「ツール」に着目した展覧会「STREETTOOLS」を、10月12日(水)~ 17日(月)に建築博物館ギャラリーにて開催した。共同キュレーターに小泉瑛一氏(aboutyour city)を招き、都市計画、アーバニズム分野との横断的な企画を試みた。来場者は延べ406名であった。
中心市街地の衰退などに起因する市街地活性化や賑わいづくり、道路での社会実験、都市再生の動きのなかで、ストリートはさまざまな行為がオーバーラップする多様性をもった空間として期待されてきた。では、ストリートが変わるには何が必要か。そこで注目したのが「ツール」である。ツールは、個人の身体の延長、あるいは各々の経験を共有可能にする存在であり、制度ほどつくるのが難しくはなく、ストリートのポテンシャルを拡張/可視化することで、人々の活動をアシストする。今回は、全国各地のストリートにおける実験や取り組みのなかで生み出された「ストリート・ツール」から展開する、これからの都市や空間を考えた。
今回取り上げたツールは以下の18事例である。
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ストリートプランツ&ストリートテラス(アーバンデザインセンター大宮:UDCO)、池袋のまちなかリビング(伊藤維建築設計事務所)、仙台滞在空地MAP(未満建築デザインファーム)、OPEN NUMAZU(日建設計+SOCI)、福岡博多屋台(TAIYA(下寺孝典)+藏園悠介+中谷利明)、マイパブリック屋台(グランドレベル+ツバメアーキテクツ)、Public Party Kit(ミリメーター)、BOLLARDTABLE(沼俊之+籔谷祐介+有原千尋+阿久井康平)、ガイトウスタンド(東京大学都市デザイン研究室)、Bench Bomb /Tokyo-to Edition(DDAA)、もしもステッカー(日建設計 NAD)、うちわスタンド(アーバンデザインセンター大宮:UDCO)、Dumpster CARGO(about your city)、AAベンチ(古渡大+アラウンドアーキテクチャー)、えのこじま凸凹ラジオ(NOARCHITECTS)、誰でもまちなかHACK tools(on design)、LUUP(Luup)、iino type-S 712(ゲキダンイイノ)
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当然、ここで展示した以外にもさまざまなストリート・ツールが存在しているが、実際に展示可能であることや、ツールとしてのバリエーションなども考慮しつつ選定した。これらを既存空間のハック、環境や使われ方のケア、そこに集まる人々のコミュニティ、都市体験を変えるモビリティの4つの観点から整理し、いくつかを取り上げ紹介する。
・ ハッキング
既存の都市のインフラや道路付属物をハックし、新たな使い方や役割を開示するツールは比較的多くの事例が見受けられた。ガードレールに取り外し可能なベンチをこっそり設置する「BenchBomb」、道路と歩道の境界に設置されるボラードに楔で取り付け可能な「BOLLARD TABLE」、さらにはコロナ禍での外飲みを可能にし、商店街の飲食店を元気づけようと、既存の街灯にアタッチメント可能なテーブルをデザインした「ガイトウスタンド」などが挙げられる。
・ ケア
都市は使われるだけでなく、日々メンテナンスされ、維持される。日常的なケアがあるからこそ、私たちはストリートを快適に使うことができる。「Dumpster CARGO」はストリートをケアする視点を取り込み、ジョギングしながらゴミ拾いを可能にする移動式ゴミ箱だ。また、「ストリートプランツ」は移動可能な植栽・植木鉢によって一時的に都市を緑化し、人々の居場所をつくるだけでなく、地域産業である植木や苗木の流通や循環を生み出し、地域環境や経済の回復を促す。
・ コミュニティ
住宅街の中に設置された持ち運び可能な「AAベンチ」は、何の変哲もない住宅地に街角的かつ公共的な雰囲気を作り出す。こうしたベンチは、高齢者や足の不自由な人が移動するうえで小休憩する場所としても期待されており、インクルーシブなまちづくりの観点からも注目できる。また、「マイパブリック屋台」は、商いというイメージが一般的な屋台に対し、個人的な趣味を介して公共的な場や関係をつくることの可能性を示す。
・ モビリティ
日本でマイクロモビリティサービスを提供する「Luup」は、「街中を駅前にする」というコンセプトを掲げ、駅から何分という指標で不動産の価値が決まるような強い中心性をもった近代的な都市構造から、分散多中心型の都市への脱却を図る。また、時速5kmという低速モビリティを開発しているゲキダンイイノは、遅さに着目することで生まれる、動く家具とでも呼べる新しいモビリティ「iino」によってストリートでの新たな移動の可能性を示す。
会期中には出展者有志による公開ラジオ収録を実施した。ツールを介して、ストリートに存在する既存のインフラやオブジェの資源性が開かれ、これまでの固いインフラとしての道路をツールがほぐし、ストリートをより柔らかな存在へと変えるのではないかという話が展開された。また、ツールを用いた小さな実践が、制度へとどのようにフィードバックされるのか、都市計画や都市デザイン分野への影響についても議論された。短い会期ではあったが、建築、都市、街づくりなど幅広い分野からの来場者があり、ストリートを変えていく、ツールという存在の可能性が感じられた。
[川勝真一/ RAD共同主宰]