繕いの営み/営みの繕い

展覧会

レポート

建築展覧会2023

繕いの営み/営みの繕い

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「つくること」、「つかうこと」、そして両者を架橋する「つくろうこと」。本展覧会が目を向けるのは、維持というあいまいな概念として放棄され、長らく建築の問題として顧みられてこなかった補修や手入れ、掃除などの小さな、しかしエッセンシャルな繕いの営みです。この終末への時間を引き伸ばす、変わらなさや緩やかな変化に対して、私たちはどのような想像力を向けることができるでしょうか。また、営みという出来事を建築的に思考し、設計するための記述や記録の可能性を探ります。

開催概要

日時 2023年10月5日(木)~15日(日)11:00~18:00
開催地 建築博物館ギャラリー(東京都港区芝5-26-20)
出展者 アリソン理恵(ARA)、伊藤孝仁(AMP/PAM)、GROUP、木村俊介(SSK)、辻琢磨(辻琢磨建築企画事務所)、山本周+小林栄範、渡邉竜一(ネイ&パートナーズジャパン)
キュレーター 川勝真一(RAD共同主宰)
対象 どなたでもご参加ください。
参加費 無料
申込み 事前申込み不要。直接会場へお越しください。
ギャラリートーク 全4回開催:10/6(金)17:00~18:00、10/7(土)16:00~17:00、10/15(日)14:00~15:30、16:00~17:30。詳細は本ページ下部に記載しています。
特別協賛 毎日興業株式会社

記録映像

出展者紹介

・アリソン理恵(ARA)
1982年宮崎県出身。豊島区東長崎にて一級建築士事務所ARA、コーヒーショップ MIA MIA、カルチュラル・キオスクI AMを営み、誰でもプロジェクトを起こしやすい環境としての日常風景を提案している。また生活者の視点から、町を自分たちの場所として整え繕う「町の営繕」を実践中。2010年日本建築学会 作品選奨、2016年ヴェネチアビエンナーレ審査員特別表彰など。

・伊藤孝仁(AMP/PAM)
1987年東京都生まれ。2010年東京理科大学卒業、2012年横浜国立大学大学院Y-GSA修了。乾久美子建築設計事務所を経て2014年から2020年までトミトアーキテクチャを冨永美保と共同主宰。2020年よりAMP/PAM(アンパン)主宰。アーバンデザインセンター大宮[UDCO]デザインコーディネーター、東京理科大学・明治大学・前橋工科大学非常勤講師。

・木村俊介(SSK)
1985年神奈川県生まれ。2012年多摩美術大学大学院修了。2012~2018年森田一弥建築設計事務所勤務。2018年SSK設立。現在、名古屋造形大学、京都芸術大学、滋賀県立大学にて非常勤講師を務める。主な著作「世界を見る目、建築を考える手」(共著_京都芸術大学 東北芸術工科大学 出版局 藝術学舎_2022年)

・GROUP
井上 岳 + 大村 高広 + 齋藤 直紀 + 棗田 久美子 + 赤塚健
GROUPは2021年設立の建築設計事務所、リサーチと設計と施工を行う。主な作品に『新宿ホワイトハウスの庭のリノベーション』『海老名芸術高速』『浜町のはなれ』など。主な書籍に『ノーツ 庭 第一号』など。主な展示に『手入れ / Repair』、主な会場構成に『EASTEAST_TOKYO 2023』など。

写真:高野ユリカ

辻琢磨(合同会社辻琢磨建築企画事務所)
1986年静岡県生まれ。2008年横浜国立大学建設学科建築学コース卒業。2010年横浜国立大学大学院建築都市スクールY-GSA修了。2011年浜松にて403architecture [dajiba]設立。2017年辻琢磨建築企画事務所設立。現在、名古屋造形大学特任講師、渡辺隆建築設計事務所特別顧問。

写真:黑田菜月
写真:長谷川健太

・山本周+小林栄範
山本周 Shu Yamamoto
2007 金沢美術工芸大学卒業。2009 金沢美術工芸大学大学院 修了。2009 長谷川豪建築設計事務所。2015 山本周建築設計事務所

小林栄範 Yoshinori Kobayashi
2010 横浜国立大学 卒業。2012 東京大学大学院 修了。2012 長谷川豪建築設計事務所。2023 小林栄範建築設計

・渡邉 竜一(ネイ&パートナーズジャパン)
1976年 山梨県生まれ。1999.3 東北大学工学部建築学科 卒業。2001.3 東北大学大学院 工学研究科 都市建築学専攻 修士課程修了。2001-2008 土木デザイン事務所(東京)勤務。2008 フリーランス。2009-2012 Ney & Partners(ベルギー)。2012- 株式会社ネイ&パートナーズジャパン設立。橋梁を中心とした土木構造物の設計、民間メーカーとのプロダクトデザインなど構造(技術)的アイデアを軸に、デザインと構造が融合した切り口の提案を行っている。国内でのプロジェクトは、札幌路面電車停留所、三角港キャノピー、長崎駅前広場、出島表門橋、新大工歩道橋、新札幌アクティブリンク、虎ノ門一二丁目Tデッキなど。

イベント
・ギャラリートーク1(登壇者:木村俊介)
日時:10月6日(金) 17:00 ~ 18:00

・ギャラリートーク2(登壇者:GROUP)
日時:10月7日(土) 16:00 ~ 17:00

・ギャラリートーク3(登壇者:辻琢磨、山本周)
日時:10月15日(日) 14:00 ~ 15:30

・ギャラリートーク4(登壇者:アリソン理恵、伊藤孝仁、渡邉竜一)
日時:10月15日(日) 16:00 ~ 17:30

特別協賛

 

開催レポート

 世界には伝統的でローカルなものから、現代的テクノロジーを用いたものまで、さまざまな「繕い」と呼べる取り組みや実践が存在している。これからの都市や建築を考えるうえで不可欠でありながら、デザインとは無関係だとみなされ、維持というあいまいな概念として放棄されてきた「繕いの営み」に目を向けた展覧会を開催した。10月5日(水)~15日(日)に建築博物館ギャラリーにて開催し、来場者は延べ431名であった。日々の清掃やちょっとした修繕など、設計/施工/運用が渾然一体となった時間軸のなかで展開する営為について、国内外から注目されている7組の建築家たちが、さまざまな表現方法を用い表現を試みた。
 「繕いの営み」の代表的なものの一つに、茅葺き屋根の葺き替えを村人総出で行う「結」がある。数年のサイクルで行われる民家の繕いは、建築だけでなく集落コミュニティそのものの結びつきを補強し、萱を育てるための領域が小動物の生息にとって欠かせないものとなり、里山の生態系のバランスを維持してきた。繕いの営みには、その内側にその営みを繕う仕組みが内包されている。
 また、こうした繕いの行為は、終末への時間を引き伸ばし、変わらなさや緩やかな変化に対する私たちの感性に働きかけ、建築を固定化したものではなく、変化を続ける出来事として捉えることでもあった。建築が変わりゆくものである存在であることは、すでにこの数十年に渡って建築家の主要な関心ごとだった。しかし、都市環境の変化や人々の暮らしに合わせて可変するシステム、マスタープランを持たない場当たり的な設計論の前提はモノとしての建築であり、そのためのプロセスが思考されていた。それに対して本展に参加した建築家は、建築を動きや出来事、プロセスそのものとして位置付けていた。それは空間性や形式性の軽視ではなく、むしろ空間や場所の物理的、社会的豊かさを求めた結果、生まれてきた建築の営みだといえるだろう。以下、各展示内容について紹介する。

・GROUP「手入れ/Repair+建築会館の手入れ」
2021年に行われた新宿WHITEHOUSEでの「手入れ/Repair」のドキュメントと、今回実施された建築会館の成り立ちと清掃の空間に関するリサーチ「建築会館の手入れ」によって構成されたインスタレーション。空間を獲得していく政治的プロセスとしての「手入れ」の時間的な広がりを示した。

・木村俊介(SSK)「FITNESS 03」
京都・山科で進行中のプロジェクトの変遷を紹介し、さらに「なり得たかもしれないかたちたち」と題した思考の動きを示す(さまざま理由で実現されなかった)ディテール模型を展示。竣工後においてもなおフィッティングを続ける思考の具現化が試みられた。

・山本周+小林栄範「建物とそれを取り巻く環境」
5月の奥能登大地震によって被災した築100年を超える伝統木造家屋。被災後に地域の人々の協力によって解体を免れたこの住宅を出発点に、経済のサイクルから抜け落ちてしまう建築との向き合い方を建物未満のアプローチによって探った記録を、インスタレーション形式で示した。

・アリソン理恵(ARA)「町の営繕」
「町の営繕」と名付けられ、東長崎エリアで取り組まれている、一つひとつは小さいが、町へと広がる営繕活動を紹介する。そこで暮らす人が、町は自分たちのものだという実感を育むことのできる場所や設えのデザイン。実際に町で使われているブックポストやツールカートが持ち込まれ、活動の肌触りを感じられる展示になっていた。

・辻琢磨(辻琢磨建築企画事務所)「続・引っ越しの建築」
建築的営為としての「引っ越し」に着目したプロジェクト。建築家が「更新設計」と呼ぶ、サブスクリプション形式の設計契約によって、設計と施工を緩やかに繋ぎ、また日常へと編み込んでいくことを可能にするための試みについて紹介した。

・渡邉竜一(ネイ&パートナーズジャパン)「出島表門橋」
市民による清掃活動「はしふき」で知られる長崎県出島表門橋の、設計から建設を経た現在までのプロセスを紹介し、近代的な分業体制を再構築する計画から維持管理までを横断したプロジェクトの生態系を提示した。

・伊藤孝仁(AMP/PAM)「ハレ・ケ・ケガレをめぐって」
ケ(=日常)が枯れたものとして「ケガレ」に着目し、ケガレからケへの回復のプロセスを「繕い」として捉えたリサーチや自身の建築プロジェクトを紹介した。ケガレを不可視化してきた近代の建築や都市のなかに、ケガレを人やモノのメンテナンスの端緒として捉える可能性を示した。

写真撮影:Yamane Kaori

 会期中には出展者によるギャラリートークを複数回実施し、出展者間でのディスカッションのなかから、繕いの営みのさまざまな可能性が見出された。人類の活動が地球環境に不可逆的な変化を与え、伝統的な住環境や暮らしの知恵がすでに持続可能な閾値を超えつつある現在、ケアや再生成などの概念とも関わり合いながら、「繕いの営み」とそれを成り立たせる「営みの繕い」について一人ひとりが考え、実践へと向かう一助になればと願う。

[川勝真一/RAD共同主宰]

写真撮影:伊丹豪

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