シリーズ名作をみる
日本女子大学 図書館・百二十年館・杏彩館
今回は、日本女子大学目白キャンパスをご紹介します。日本女子大学では、創立120周年記念事業に伴うキャンパス再編の一環として「目白キャンパス再整備」が行われました。その開放的な建築計画は、キャンパス全体のラーニングコモン化を目指しており、目白通りと不忍通りに面した青蘭館と杏彩館のアーチ屋根形状と、図書館、百二十年館に繰り返されるアーチ屋根形状は印象的なキャンパスファサードを創出しています。貴重な機会ですので奮ってご参加ください。
主催 | 日本建築学会関東支部 |
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日時 | 2024年10月3日(木)13:30~15:30(受付13:00~) |
見学先 | 日本女子大学目白キャンパス 図書館・百二十年館・杏彩館(東京都文京区目白台2-8-1) |
対象 | どなたでもご参加ください。 |
定員 | 50名(申込先着順) |
参加費 | 2,000円 |
申込み・詳細 | 日本建築学会Webサイト「催し物・公募」欄よりお申し込みください。 |
問合せ | 日本建築学会関東支部 TEL:03-3456-2050 E-mail:kanto@aij.or.jp |
10月3日(水)、約50名の参加者が集まり見学会が開催された。日本女子大学の図書館・百二十年館・杏彩館は、妹島和世建築設計事務所・清水建設設計共同企業体の設計監理である。図書館は2019年に竣工し、百二十年館・杏彩館は2021年に竣工した。3つの建物は第64回BCS賞を受賞しており、加えて、図書館は2022年に日本建築学会作品選奨を受賞した名作である。当日は成瀬記念講堂にて、実際に設計を担当された妹島和世建築設計事務所の棚瀬純孝氏から、3つの建物の設計コンセプトや施工時のこだわりや工夫などを詳しく説明していただいた。
3つの建物は日本女子大創立120周年の目白キャンパス再整備計画として建設された。女子大の特性上、クローズになりがちな施設を街に対して開放的なつくりとすること、目白通りをはさんだ敷地にある図書館を既存キャンパスと一体的にみせること、大学の新しいシンボルとなる建物とすることなどを狙いとしている。
図書館は、スロープや吹き抜けによって上下階をつなぐ構成とし、フロアの周りを回遊していくようにスロープが設けられている。図書館の天井は、フラットスラブによるコンクリートの現し仕上げとし、柱のキャピタルを利用した300mmのOAフロアを配することで、空調や電気配線の展開、書架の架台の隠蔽を行っている。フラットスラブへの配管の打込みを避けるため、図書館の天井には照明を付けず、テーブル上や書架の上下につけた間接照明により、建物内の必要照度を確保している。図書館のテーブルと椅子は、従前の図書館で使われていたものも一部で再利用している。
百二十年館は、キャンパス内の動線や周囲の建物、隣接する住宅地への圧迫感を抑えるため、高さを抑えた建物とし、建物の採光や風通しを良くするため、大きな吹き抜けの中庭(パティオ)を計画した。授業や研究活動のために求められる機能を満たしつつ、学生の多様な活動のために共有できるような空間とした。B1階と1階は教室、2階・3階は研究室としている。B1階にはラーニング・コモンズを設けており、さまざまなアクティビティに活用されている。廊下のどこからでも中庭が見渡せる空間とした。
杏彩館は不忍通り側の入り口に面しており、キャンパスのもう1つの顔となる建物である。普段は食堂や学生の滞在スペースとして使われるが、大人数のレクチャーやイベントなどの使用も想定されている。図書館前の青蘭館でも用いたヴォールト状の屋根は、不忍通りでは都市規制で最低高さが定められており高さ7mと大きなものとなった。図書館の守衛室、護国寺門の守衛室も共通のヴォールト状の屋根とし、一体感を持たせている。
概要説明の後、図書館から百二十年館、杏彩館を回るA班と、逆の順路で回るB班の2班に分かれて見学を行った。見学中には、実際に設計された方々の苦労された点、工夫された点を直接お聞きできた。例えば、図書館のスロープは床の勾配が異なるねじれた形状のため、設置するガラスサッシは1枚ずつ寸法が異なることから施工上苦労したという。また、見学者から図書館内の照度についての質問があり、夜間も十分な照度が確保されていることや、夜景の美しさについても評判が高いとコメントがあった。
見学終了後に戻ってきた成瀬記念講堂は、天窓が開放され、窓の趣きあるステンドグラスが美しく、文京区の指定有形文化財第一号である魅力的な空間を楽しむことができた。普段は入ることができない大学の敷地内の名作を見られるまたとない機会となり、参加した多くの方から高評価をいただいた。棚瀬氏を初め見学会開催にご協力いただいた全ての方々に心より感謝申し上げたい。
[村田明子/清水建設株式会社技術研究所]