活動レポート
10月6日(日)、約60名の参加者が集まり見学会が開催されました。国立代々木競技場(第一・第二体育館)は、丹下健三による設計で1964年に竣工しました。1964年東京オリンピックのメイン会場として建設され、二点支持の吊り屋根構造という革新的な構造システムを実現した世界的名作です。当日は、国立代々木競技場世界遺産登録推進協議会(以下、協議会)の協力のもと、千葉大学の豊川斎赫准教授から、設計思想、都市文脈、構造システム、保存と運用の現代的課題について解説していただきました。
豊川准教授による冒頭解説では、1964年東京オリンピックという時代背景、明治神宮と競技場の2本の柱が正対している都市軸との関係、神宮外苑から代々木公園へ連続する都市スケールの構図などが示されました。丹下健三が掲げた「力の可視化」、二点支持の吊り屋根によるケーブル形状とリング梁の構成原理、構造的合理性とデザインとの融合、設計から施工に至る過程での構造形式の変更などが説明されました。屋根自重による変形を許容する可動梁の開発は画期的であり、構造体の見せ方から都電で用いられた敷石材の再利用など、実空間を見ながら解説して頂きました。また、世界遺産登録における評価軸として渋谷区をはじめとする地域の理解醸成の重要性が示されました。名作の成り立ちを理解するだけでなく、今日に至る運用・更新を踏まえて価値を継承する視点の提示が、見学会の基調となりました。
概要説明を聞きながら、第一体育館から第二体育館を回るルートで見学を行いました。第一体育館では、大スパンを実感させる吊り屋根の構成やディテール、プールから体育館への用途変更、空調の追加、大規模改修など、時代や機能の変遷についての解説を受けました。第二体育館では、第一と同じコンセプトだが規模の差異が構造や空間に与える影響を比較して見ることができました。共通する主題(張力構造の合理性と空間の一体化)と相違点(観客席配置、天井面の処理、採光計画など)を対比することができましした。外構においては、景観が維持される明治神宮側と流動的に変化する渋谷側の対比が世界遺産登録における評価のポイントとなること、起伏のある敷地が多様な視点場を生み出し「都市の間」を形成する装置として機能している点を現地で確認しました。
第一体育館では千葉大学の学生によるワークショップが実施されました。プラスチック製の鎖とヒンジを用いて、参加者自身が構造体となる即興的な力学の可視化を行いました。ケーブルとハンガー、リング梁、制振ダンパーの役割を各自が分担し、自重に対する張力の流れ、支持点での反力を体験的に共有しました。ジョイントの破損という予期せぬ事態は、実構造における耐久性の重要性を実感させる機会となりました。第一・第二体育館の比較では、スパンの差がケーブル曲率やハンガー長に与える影響、客席傾斜と視界確保の関係、天井反射面と音響への配慮など、体験を通じて空間性と設計意図の理解を深めました。
参加者からは、学生によるワークショップ型の実践が、複雑な構造形式の理解に非常に有効だったという意見がありました。荷重を自ら体験する学びが、抽象的だった「張力」と「曲面」の主題を具体的なイメージに変換し、造形と力学、空間体験の一致を体感的に理解ができました。また、世界遺産という枠組みが、保存の可否判断だけでなく、更新や運用の質を高める実践的ガイドとなり得ること、すなわち「生きた文化財」としての公共建築のあり方を考える契機になったという意見も得られました。
普段は入ることが難しい国立代々木競技場の内部を詳しく見学できるという、またとない機会となり専門的解説とワークショップを組み合わせることで、都市スケールからディテールに至るまで「張力とデザインの調和」という代々木競技場の本質を多角的に捉え直すことができました。参加した多くの方から高評価をいただきました。豊川准教授、千葉大学の学生の皆さん、協議会事務局の西川さんをはじめ見学会開催にご協力いただいた全ての方々に心より感謝申し上げます。