日本庭園は現代ランドスケープのルーツか?

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カルチベートトーク2023

日本庭園は現代ランドスケープのルーツか?

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単純に「外構」と呼ばれていた、建築の外・余白部分。現在は世界的にも「ランドスケープ」「ランドスケープデザイン」との言葉が浸透し、その重要性が強く認識されています。そのなかでも特に世界にも注目されている、日本庭園、平安時代から続く日本が誇る「庭師・作庭家」の仕事とその作品。しかしその仕事や手法について、体系化された書籍はほぼない状況です。そこで今回、ランドスケープアーキテクト連盟会長の戸田芳樹氏を招き、日本庭園の根底に流れる歴史や思想を読み解き、その手法について解説していただくとともに、現代のランドスケープデザインについてのさまざまな実例にも焦点を当て、好事例のみならず助言や苦言も含めて楽しく語ります。

開催概要

日時 2023年10月25日(水)18:30~20:00(開場18:00)
開催地 建築会館ホール(東京都港区芝5-26-20)
講演者 戸田芳樹(ランドスケープアーキテクト連盟会長)
モデレーター 濱野裕司(竹中工務店執行役員)
対象 どなたでもご参加ください。
定員 100名(申込先着順)
参加費 無料
申込方法 上記の「お申し込み」ボタンから専用フォームにアクセスのうえ、お申し込みください。

開催レポート

 今年のカルチベートトークは、「日本庭園は現代ランドスケープのルーツか?」と題して、10月25日(水)に建築会館ホールにて開催した。参加者は計71名であった。
 単純に「外構」と呼ばれていた、建築の外・余白部分。現在は世界的にも「ランドスケープ」「ランドスケープデザイン」との言葉が浸透し、その重要性が強く認識されている。そのなかで特に世界にも注目されている日本庭園、平安時代から続く日本が誇る「庭師・作庭家」の仕事とその作品について焦点をあて、それがどのように現代のランドスケープデザインにつながっていったのか?を考えるのが今回のテーマである。ただその「庭師・作庭家」の仕事や手法について、体系化された書籍は、ほぼ無い状況である。そこで今回、その体系化や研究にも取り組んでおられる、ランドスケープアーキテクト連盟会長・戸田芳樹氏(戸田芳樹風景計画代表取締役)を招き、モデレーターを建築文化事業委員会・濱野裕司(竹中工務店執行役員)が務め、戸田氏より日本庭園の根底に流れる歴史や思想を丁寧に説明いただき、特に桂離宮を題材にその手法について詳しく解説していただくとともに、現代のランドスケープデザインについても、さまざまな実例に焦点をあて楽しく語っていただいた。
 まず講演は、序章としてランドスケープアーキテクトの戸田氏自らの原風景の話から始まった。尾道の実家が小津安二郎監督「東京物語」の撮影に使われ、そのシーン・映像が家族にひとつの価値観とアイデンティティを生み出し、自身の原風景となったと語る。ただの「雑木林」が文学の力で「武蔵野」の風景となるように、風景とはそこに「物語」があって初めて成立する、との話から、氏の内側にある原風景と、物語から生み出された自身が手掛けた作品の紹介へとつなげていただいた。
 話は本題の日本庭園に続き、その大きな特徴ともいえる「枯山水」は、実は中国の「盆景」が明らかにルーツとして考えることができ、世界的な庭園のデザインは日本・中国・西欧の3つの文化の流れが相互に影響し合っていると述べる。具体的には、中国では喪失した中国文化の代替の日本文化へのオマージュ、西洋にとってはジャポニズム・ニュージャポニズムの到来、そして日本では19世紀以降の西欧への憧れとリスペクト、それらが色々な時代を経ても継承・発展され続けていると解説いただいた。次に、「日本庭園の解き方」として、プログラム・作品から発想やデザインを推論する方法について、菊竹清訓「か(原型・コンセプト)・かた(類型・システム)・かたち(造型・デザイン)」 論、同じく黒川紀章「原型・類型・造型」論を用いて語っていただいた。

 続けて、日本庭園史におけるパラダイムの転換とデザインについて、系統立てて考察すると、①和様美の発見/「仏教の視線」と和への傾斜/飛鳥~奈良~平安時代/飛鳥時代の蘇我馬子、②寓意性の発見/「禅の視線」による象徴性・抽象性の発見/鎌倉~室町時代/鎌倉時代の夢窓国師、③身体性の発見/「茶の湯の視線」が持つ自在なスケールの獲得/桃山~江戸時代/桃山時代の千利休と秀吉、④自然の再発見/「自然への視線」による宗教・思想の喪失/明治~大正~昭和時代/明治時代の山縣有朋と植治、の4つの時代とそれぞれを代表する人物に分類されるのではないかとの解説があった。
 また具体的な各々の日本庭園の読み解きとして、桂離宮、後楽園、山口常栄寺庭園(雪舟作庭)、妙心寺退蔵院庭園(狩野元信作庭)の事例をあげられた。より詳細な事例として、桂離宮庭園を菊竹清訓の「か・かた・かたち」論で具体的に読み解いていただき、「か」として、白楽天の世界・源氏物語の世界、「かた」として、軸の構成・空間の構成・移動の構成、「かたち」として、デザインの目的、との話を経て、桂離宮庭園の現代性と、現代につながる物語を具体的に解説いただいた。そして現代のランドスケープ作品へと話は展開し、「か・ かた・かたち」の三段論理でその歴史の継承と展開を語っていただいた。
 まとめとして、ランドスケープデザインとはそもそもその土地に根差したものであり、建築などのデザインよりも、より独自の体系があると理解すべきなのでは、との自身の問いかけから、その背景にある物語とデ
ザインへの理解を深め、精神性、伝統の援用、創造の輝きを理解する考え方を丁寧に語っていただいた。当日は久々のリアル開催とのこともあって多くの方々にご参加いただき、質問も多く出される活気あふれる会となった。

[濱野裕司/竹中工務店執行役員]

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