若手エンジニアの構造デザインはいま

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構造デザインフォーラム2023(第28回)

若手エンジニアの構造デザインはいま

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1995年にスタートした構造デザインフォーラム(Structual Design Forum:SDF)は今年で28回目を迎えます。SDFは、建築文化事業の一環に位置づけられており、例年、「アーキニアリング・デザイン(AND)展」との連携を計りながら企画しております。
今年度のSDFは、「若手エンジニアの構造デザインはいま」と題して開催いたします。構造関連の受賞経験のある技術者や話題のプロジェクトを担当しているエンジニアにご講演いただき、設計した建築作品を通じて構造設計の魅力をお伝えします。また、AND展と連携し、建築と技術の融合が空間にどのように貢献したのかという視点も含めてご講演いただきます。
上記のような視点での講演後、パネルディスカッションにて建築・空間・形態・構造の関係性、構造システムの発展などについて討論いたします。

開催概要

主催 日本建築学会関東支部構造専門研究委員会
日時 2023年11月7日(火)15:00~18:00
開催地 建築会館会議室(東京都港区芝5-26-20)およびオンライン
講演者 野田 賢(金箱構造設計事務所)
原健一郎(石本建築事務所)
平岩良之(平岩構造計画)
モデレーター 斎藤公男(日本大学名誉教授)
司会・主旨説明 小倉史崇(竹中工務店/設計WG主査)
対象 どなたでもご参加ください。
定員 建築会館会議室 60名(申込先着順)
オンライン 80名(申込先着順)
参加費 会員1,000円、会員外1,100円、学生(会員)500円、学生(会員外)550円
申込方法 日本建築学会Webサイト「催し物・公募」欄よりお申し込みください。
問合せ 日本建築学会関東支部
TEL:03-3456-2050 E-mail:kanto@aij.or.jp

開催レポート

 日本建築学会関東支部構造専門研究委員会(設計WG)主催の構造デザインフォーラムが、11月7日(火)に開催された。構造デザインフォーラムは、構造関連の受賞経験のある技術者や話題のプロジェクトを担当しているエンジニアにご講演いただき、設計した作品を通じて構造設計の魅力をお伝えしてきた。今年は「若手エンジニアの構造デザインはいま」をテーマと設定し、野田賢氏(金箱構造設計事務所)、原健一郎氏(石本建築事務所)、平岩良之氏(平岩構造計画)の3名にご登壇いただいた。また、全体の進行をモデレーター・斎藤公男氏(日本大学名誉教授)にお願いし、司会を小倉史崇(竹中工務店/設計WG主査)が務めた。会場については建築会館3階会議室にて開催した。昨年からZoomを用いたオンライン配信を併用しているが、関東圏以外の方々にも広く参加いただけるように、今年も対面・オンライン配信の併用開催とした。参加者数は会場参加が58名、オンライン参加が51名の計109名と多くの方々にご参加いただき、構造デザインへの興味の高さが感じられた。

 野田賢氏からは「形と結びつく構造の糸口」というテーマで2つの作品を対象にご講演いただいた。1つ目の「南予森林組合事務所」は四隅で支持したCLT による円筒シェルが特徴的な建物であるが、精緻な接合部の検討と構造実験による性能確認を通して、開放的なCLT円筒シェルを実現されていた。2つ目の「千光寺頂上展望台PEAK」は広島県尾道市の千光寺山頂上にある展望台とロープウェイ駅舎の計画である。山頂という特性からくる地形の起伏や地表面の岩々の存在を考慮しながら、展望台の機能を有するブリッジと螺旋階段を軸力抵抗系の柱で支持している。ブリッジと螺旋階段はL形のRC断面で構成されているが、直線状のブリッジ部分は鉄骨梁を内蔵したSRC梁としてねじれ剛性を確保し、螺旋階段部分は円弧状の形状を数点で支持した形式とし、十分な曲げ剛性とねじれ剛性を確保している。独特の浮遊感を有する展望台は非常に印象に残った。
 原健一郎氏からは「胎内市総合体育館」、「大空間建築における設計での取組み」、「構造も積極的に環境を考える」という3テーマについてご講演いただいた。多くの作品に触れていただいたが、特に「アルキメデスの平面充填方式」が採用された胎内市総合体育館が印象に残った。「アルキメデスの平面充填方式」とは、正多角形の組合せで平面を隙間なく敷き詰めることができるもので、多角形の頂点がすべて同じ形状になる。本計画では正方形と正三角形の組合せの平面充填方式をトラス下弦材に採用することで、躍動感のある体育館を実現されている。また、講演の最後には、ご自身が大切にしていることとして「進化」「姿勢」「探求心」の3点を上げられ、特に「探求心」について、「他のセクションへの探求心も持ってお互いに融合していくことでより良い建築ができると信じている。」と話をまとめられたことも印象的であった。

 平岩良之氏からは「シェルターインクルーシブプレイス コパル」の設計プロセスについてご講演いただいた。本作品は雪の多い地域である山形市に位置するが、冬場においても天候に左右されず、インクルーシブプレイスとして障がいの有無、国籍や家庭環境の違いに関わらず、すべての子どもたちにとって開放的な施設として計画された。本作品は、柱のない体育館とその周辺の遊技場を備え、いくつかの機能を有した部屋をRCスロープの帯の中に配置し、それら全体を包みこむように3,000㎡超の大屋根で覆われている。「有機的な屋根」、「スパン約30mの無柱の体育館」、「仕切りの無い連続した空間」、「自由な柱配置」という4つの課題を設定し設計が進められ、体育館範囲の木造アーチとをポリゴン分割した鉄骨架構を用いることでこれらを解決し、有機的かつ滑らかな形状が実現されている。
 3名の講演後、講演者とモデレーターの斎藤公男氏による、質疑応答を主体としたパネルディスカッションを行った。限られた時間のなかではあったが、建築家・意匠設計者との設計の進め方、学生時代に大事にしたこと、基礎的な力学やスケッチの重要性などが議論された。また、来場していた学生に対するメッセージとして、斎藤氏からはプレゼンテーションの重要性についても語られた。ディスカッション後は、関連企画として11月1日(水)~8日(水)に建築博物館ギャラリーで開催された「アーキニアリング・デザイン展」に移動し、講演いただいた作品の模型とパネルを用い、講演者による解説と質疑応答を行った。模型を前にして説明を聞くことで、講演内容への理解が進み、闊達なディスカッションができたのではないかと感じている。

[小倉史崇/関東支部構造専門研究委員会設計WG主査]

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