活動レポート
第30回構造デザインフォーラム「大阪・関西万博 2025をめぐって」が11月12日に開催された。1970年の大阪万博から55年の時を経て開催された「大阪・関西万博 2025」は、「いのち輝く未来社会のデザイン」をテーマに半年間の開催期間を終えた。記念すべき第30回は、社会的にも大きな注目を集めた万博の閉幕直後のタイミングで、構造設計者の立場からこれを振り返る機会を設けることとし、万博に関わりのあった構造技術者6名による二部構成の講演を企画した。
第一部では全体の施設概要として、太陽工業の喜多村淳氏による「2025大阪・関西万博施設概要」、KAPの萩生田秀之氏による「大屋根リング」の設計経緯と技術について報告いただいた。第二部では個別パビリオンを対象として、清水建設の鷹羽直樹氏による「飯田グループ×大阪公立大学共同出展館」、鹿島建設の金子寛明氏による「いのち動的平衡館」、太陽工業の染谷健太氏による「いのちの遊び場クラゲ館」、コウゾウケイカクロナンナンの高橋寛和氏による「クウェートパビリオン」について、プロジェクトの概要と設計・施工の技術について講演いただいた。
会場は建築会館の会議室にて開催し、Zoomを用いたオンライン配信を併用したハイブリッド形式とした。参加者数は会場参加が定員の60名、オンライン参加が約80名と、定員を上回る合計140名の方々にご参加いただいた。
第一部では、万博全体の施設概要と大屋根リングについて概説いただいた。今回の万博では67件の施設で膜構造が採用され、塩化ビニル樹脂(PVC)で構成されるB、C種膜の採用が多く見られた。また、メッシュ膜、ETFE等の多様な膜材料の使用も万博ならではであった。講演された喜多村氏は「万博は未来社会の実験場」として、今後の建築技術発展の契機となることを期待すると述べられた。
萩生田氏は大屋根リングの基本設計に携われたが、高さ12~20mの大規模木造ラーメン構造をいかにして実現するか。剛性確保と仮設建築としての解体の容易さ、これらを両立する接合部の実現が課題であった。「鋼板挿入ドリフトピン」「引きボルト」「GIR」といった各種接合部を検討した結果、梁のめり込み補剛を行った貫接合の検討が進められた。
第二部では4作品を取り上げて講演いただいた。どの作品も、有機的で不定形なデザインであることに特徴がある。そこに魅力がある一方で、その形状をいかに実現させるのかという技術的課題に、設計者をはじめとした関係者の知恵と工夫が集約されている。
サステナビリティの象徴であるメビウスの輪をコンセプトにした「飯田グループ×大阪公立大学共同出展館」は、12本の3次元アーチと西陣織膜で構成された長径64.4m、短径39mの躍動的な外観が印象的である。12本の3次元アーチは、6つの異なる曲率を有した、高周波曲げ加工により形成された鋼管を捩じりながら継ぐことで実現している。また、実施工に先立ち全部材による仮組を行うという万全を期した対応により実現している。
「いのち動的平衡館」は、3次元自由曲線の鉄骨リングとケーブルネットで長辺43m、短辺25mの無柱空間を実現している。この鉄骨リングの形状は、ハート形にした針金の両端を押しこむことでできる、くびれた形態を発端としている。大変形が生じるこの構造システムの検討には幾何学的非線形解析が用いられた。完成形の張力状態を実現するために、施工ステップを15ステップに分割し、各段階でケーブル張力を管理する逆工程解析が実施されている。
クラゲの有機的な曲面とゆらぎの表現をコンセプトにした「いのちの遊び場クラゲ館」は、ダブルレイヤーの立体トラスを37本の柱で支持している。立体トラスは一般的なオクテット(四角錘)ではなく、より節点数の多い三角組(三角錐)を採用することで滑らかな曲面を実現している。その形状を追求した結果、1,170個すべての節点で異なるグローブが必要になったが、解析プログラムとデータ連動した工場製作により高精度に製造されている。
取り上げた作品の中では唯一の海外パビリオンである「クウェートパビリオン」は、多様な機能を一枚の流動的な屋根で覆う構成で「砂漠に漂う絨毯」「大鷲の翼」を想起させる豊かな造形が特徴である。2023年7月末からの参画という極めてタイトなスケジュールの中で、「イメージを変えずにメカニズムを変える」という方針のもと、グリッドシェルから複層トラスへの変更など、実現性の課題に技術的な解決を図っている。なお、本作品の「翼」部分は佐賀県に移設されることが決定している。
講演後は、6名の登壇者とモデレーターである斎藤公男先生の進行によるディスカッションが行われた。討論は、各作品に関する内容で始まり、最後はデジタルツール、コンピュテーショナルデザインの話題へと移っていった。これらの技術との向き合い方、設計のあり方について、考え続けていく必要があることがあらためて認識された。
[小倉史崇/関東支部構造専門研究委員会設計WG主査]