登録有形文化財の保存・活用を体感する

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登録有形文化財の保存・活用を体感する

江別市 北海道林木育種場旧庁舎

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 北海道林木育種場旧庁舎は、昭和2(1927)年、内務省林業試験場の現在地への移転に伴い建築されました。本建築は、1階壁体を煉瓦造、2階と小屋組を木造とする特異な構造を持ち、外観も、1階は石材を多用し、2階は木造軸組を強調した特異なデザインとなっています。また大規模(床面積1,400㎡余)で、野幌丘陵の頂にあることも相まって、江別市の代表的なランドマークの一つとなっています。
 平成8(1996)年、北海道林木育種場の新庁舎完成に伴い、本建築は庁舎としての役割を終えました。その後、江別市が本建築を取得し、平成13(2001)年、国の登録有形文化財建造物となりました。当初は、文化財資料の整理保管場所等として使用されましたが、建物の有効活用、保存方法の模索が続けられ、令和2(2020)年に株式会社珈房サッポロ珈琲館が保存・活用事業者となりました。2021年末には建物の保存的改修が完了し、2022年春から営業を開始しています。  建物の修復にあたっては歴史意匠専門委員会の委員も助言を行い、比較的良好な修復が行われています。
 本建築のように大規模な登録有形文化財建造物を民間事業者が活用する事例は、全道的にも貴重で最新のものと考えられます。本建物の見学に加え、「建設の経緯、建物の特徴、保存活用の経緯、事業者の視点」などの内容で講座を開催し、歴史的建造物の保存・活用に関する普及啓発を行います。

開催概要

主 催 日本建築学会北海道支部
日 時 10月13日(木)13:00~15:30
会場および見学先 北海道林木育種場旧庁舎・珈房サッポロ珈琲館Rinboku
集合場所 珈房サッポロ珈琲館Rinboku 前庭(北海道江別市文京台緑町561-2)
解説者(見学会) 日本建築学会北海道支部歴史意匠専門委員会委員
講師(講座) 日本建築学会北海道支部歴史意匠専門委員会委員
江別市教育委員会
珈房サッポロ珈琲館
対 象 どなたでもご参加ください。
定 員 25名(申込先着順)
参加費 無料
申込方法 10月7日(金)までに、ハガキまたはE-mailにて「氏名・年齢・所属・住所・電話番号」を明記のうえ、お申し込みください。
申込先・問合せ 室蘭工業大学 創造工学科 武田研究室
〒050-8585 北海道室蘭市水元町27-1 Y棟201室
TEL:0143-46-5252 E-mail:atake1@mmm.muroran-it.ac.jp
備 考 珈琲館利用者の駐車場は限られています。ご来場に際しては公共交通機関のご利用をお願いいたします。

開催レポート

日本建築学会北海道支部歴史意匠専門委員会が中心となって江別市に所在する北海道林木育種場旧庁舎の見学会を実施した。北海道林木育種場旧庁舎は、昭和2(1927)年、内務省林業試験場の江別市文京台緑町への移転に伴い建築された2階建の建物で、1階壁体を煉瓦造、2階と小屋組を木造とする特異な構造を持ち、外観も、1階は石材を多用し、2階は木造軸組を強調したハーフティンバー風のデザインとなっている。同時に大規模(床面積1,400㎡余)で、野幌丘陵の頂にあることも相まって、江別市の代表的なランドマークの一つとなっている建物である。
平成8(1996)年、北海道林木育種場の新庁舎完成に伴い本建築は庁舎としての役割を終え、その後江別市が本建築を取得、平成13(2001)年、国の登録有形文化財建造物となった。登録有形文化財建造物となってからは建物の一部が文化財資料の整理保管場所や森林公園を散策する市民の休憩施設等として活用される程度であったが、建物の有効活用、保存方法の模索が続けられ、令和2(2020)年に株式会社珈房サッポロ珈琲館が保存・活用事業者となり、建物の保存的改修を実施した後、2022年春から「サッポロ珈琲館 Rinboku」として営業を行っている。建物の修復にあたっては歴史意匠専門委員会の委員も助言を行い、比較的良好な修復が行われている事例でもある。
本建築のように比較的大規模な登録有形文化財建造物を民間事業者が活用する事例は、全道的にも貴重で最新のものと考えられることから、本建物の見学会に加えて、建設の経緯、建物の特徴の概説、あらたな保存活用への道を考えるという視点での講座・座談会を開催し、歴史的建造物の保存・活用に関する普及啓発を行うこととした。
開催日は10月13日(木)で、参加者数は後援機関関係者を含めて29名(一般参加者21名)であった。初めに、歴史意匠専門委員会の小林孝二委員が解説者となって建物の外部、内部の見学会を実施し、外観意匠については、前記した1階壁体を煉瓦造、2階と小屋組を木造とする特異な構造(混構造)を持ち、1階は石材を多用し、2階は木造軸組を強調したハーフティンバー風のデザインとなっている点や、改修にあたって窓や外壁などの外観意匠の保存に努めたこと、内部は1階については入居者の業態に合わせた改修は行ったものの当初の構造や間仕切りなどは極力温存したこと、2階については今後の活用を検討中であることから、当初の形態を残していることなどを説明した。

見学会の様子

続いて講演会では「北海道林木育種場旧庁舎の魅力と歴史的建造物を残して使うこと」と題して歴史意匠専門委員会の鈴木明世委員が講演し、旧庁舎の特徴について「混構造」であることが窓の配置など意匠に与えている影響や、類似した歴史的建造物の事例について紹介し、旧庁舎の魅力や歴史的建造物を活用していくことの重要性について説明した。
最後に、「Rinbokuへの道のりとこれから」と題して、北海道林木育種場旧庁舎の保存活用20余年の歴史を改めて振り返り(Rinbokuへの道のり)、今後のあり方を考える(これから)ことを目的に座談会を行った。司会は歴史意匠専門委員会の小林孝二委員が務め、所有者である江別市教育委員会から江別市が旧庁
舎を取得した経緯およびその後の保存活用の歴史の説明と、今後の更なる活用への説明を受けた。
加えて、活用の主体的な事業者であるサッポロ珈琲館代表取締役社長である伊藤仁氏からは、事業者への応募の経緯、事業者決定から開業までの道のり、さらには開業後の現状についてもお話いただいた。
所有者側の説明からは、比較的大規模な庁舎建築を活用することには多くの課題が存在し、更なる活用の方途を進めていくことの重要性を確認できた。また、事業者からは、企業イメージを高めるなどの前向きな姿勢が感じられる有意義な座談会になったものと考えられる。
座談会の最後に一般参加者からは、何よりも北海道林木育種場旧庁舎そして「サッポロ珈琲館 Rinboku」の存在と活動を市民に周知することが必要であるという意見を多くいただいた。
今後、保存活用をさらに進めていくために日本建築学会北海道支部歴史意匠専門委員会も積極的に協力していきたいと考える。

講演会の様子

[小林孝二/元北海道博物館学芸員]

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