若手エンジニアの構造デザインはいま

シンポジウム・講演会

レポート

構造デザインフォーラム2022(第27回)

若手エンジニアの構造デザインはいま

シェアする
LINE

 1995年にスタートした構造デザインフォーラム(Structual Design Forum:SDF)は今年で27回目を迎えます。SDFは、建築文化事業の一環に位置づけられており、例年、「アーキニアリング・デザイン(AND)展」との連携を計りながら企画しております。
 今年度のSDFは、「若手エンジニアの構造デザインはいま」と題して開催いたします。構造関連の受賞経験のある若手エンジニアや話題のプロジェクトを担当している技術者にご講演いただき、設計した建築作品を通じて構造設計の魅力をお伝えします。また、AND展と連携し、建築と技術の融合が空間にどのように貢献したのかという視点も含めてご講演いただきます。
 上記のような視点での講演後、パネルディスカッションにて建築・空間・形態・構造の関係性、構造システムの発展などについて討論いたします。

開催概要

主 催 日本建築学会関東支部構造専門研究委員会
日 時 11月8日(火)16:00~19:00
会 場 建築会館会議室(東京都港区芝5-26-20)およびオンライン
講演者 天野 裕(Arup)
坂田涼太郎(坂田涼太郎構造設計事務所)
名和研二(なわけんジム)
三崎洋輔(EQSD一級建築士事務所)
モデレーター 斎藤公男(日本大学名誉教授)
司 会 山我信秀(NTTファシリティーズ/設計WG主査)
定 員 建築会館会議室 40名(申込先着順)
オンライン 80名(申込先着順)
参加費 一般1,000円、学生500円
申込方法 日本建築学会Webサイト「催し物・公募」欄よりお申し込みください。
問合せ 日本建築学会関東支部
TEL:03-3456-2050 E-mail:kanto@aij.or.jp

開催レポート

日本建築学会関東支部構造専門研究委員会(設計WG)主催の構造デザインフォーラムが、11月8日(火)16:00 ~ 19:00に行われた。今年度の本企画は、「若手エンジニアの構造デザインはいま」をテーマとして、構造関連の受賞経験のある技術者や話題のプロジェクトを担当しているエンジニアにご講演いただき、設計したプロジェクト、作品を通じて構造設計の魅力を伝えていただいた。三崎洋輔氏(EQSD一級建築士事務所)、天野裕氏(Arup)、名和研二氏(なわけんジム)、坂田涼太郎氏(坂田涼太郎構造設計事務所)の4名に登壇いただき、全体の進行をモデレーター・斎藤公男氏(日本大学名誉教授)が行い、司会を山我信秀(NTTファシリティーズ/設計WG主査)が行った。今年度は対面とZoomのハイブリットで開催し、参加者数は126名(社会人96名、学生30名)と多くの方々にご参加いただき、構造デザインへの興味の高さが感じられた。

会場風景

・ 閖上の掘立柱-構造設計者からの眺め/三崎洋輔氏
三崎氏より、閖上の掘立柱の設計・施工の内容についてご紹介いただいた。宮城県名取市の閖上地区に計画された建物で、海に近い敷地であるが、周辺は河川堤防と防潮堤に囲まれている。海が見えるようにしたいという施主の希望を実現するために、4本の鋼管杭を地上の柱に兼用する掘立柱として、基礎梁を介さずに建物と接続し、かさ上げしている。杭の施工誤差は杭頭部の継手部で吸収するようにしていた。建物は純ラーメン構造であるが、杭と建物接続部分には補助的に引張ブレースが設けられていた。梁を家具と兼用するなど、建築計画との融合が図られていた。

・ ファサードエンジニアリングによるトータルデザイン/天野裕氏
天野氏より、これまで関わってきたファサードエンジニアリングのプロジェクト事例から、これからのトータルデザインのあり方についてご講演いただいた。洗足学園音楽大学 The Lawn音楽堂についてコンピュテーショナルデザインにより実施した架構計画やディテールの設計について説明いただき、コンピュテーショナルデザインを用いながら「なるべく自然につくる」という思想を実現した、シルバーマウンテンの外装材のパネル割りの考え方についても説明いただいた。金沢実践倫理会館では、太陽光をガラスのルーバーの光の屈折によって建物へ取り入れていた。ガラスのルーバーの形状を解析にて求め、天井を照らす光は最大化し、人の目線レベルの光を抑えてまぶしさを軽減させることを実現していた。

・ 構造活動昨今「拾う(ひろう)て広う(ひろう)」/名和研二氏
名和氏より、自身の設計思想について設計作品を通じてご講演いただいた。今は十分機能していないが使えるもの、生かせるものを見つけ活用する-「拾う」-こと、世の中が少数、小領域、小条件に限定されていく傾向にあるが、限定されない(他・多)の扱いを広げていく-「広う」-ことで、多くに対して豊かである建築を目指していた。テトラポットを製造する際に出てしまう廃コンクリートを活用した住宅、職人不足を解決するために吹付けコンクリートを用いた住宅などの材料についての事例や、高層木造を実現するために、一般的な技術で解決できる木造とSRCメガストラクチャーのハイブリット構造など、木と他の材料との関係についての事例や、コンテナを用いた移動式の住宅の連結部の誤差の吸収などを説明いただいた。

・ 部材の組合せから見える構造デザインの様相/坂田涼太郎氏
坂田氏より、木架構が作り出す表情について、木材を使うことで、また組み合わせを変えることで、構造デザインにどのような違いをもたらすかをご講演いただいた。架構には断面やピッチ、配置が無限に存在するが、垂木を例に空間の印象がどのように変わるか設計事例を通じて説明いただいた。単純な合掌屋根の垂木でのスラスト処理の重要性や、棟梁に丸太を用いて柔らかい空間を創出したこと、120角のスギの角材を用いた移動式仮設体育館での解体可能な木と鉄のハイブリット架構などを説明いただいた。

・ パネルディスカッション
講演者4名にモデレーターの斎藤氏を加え、質疑応答を主体としたパネルディスカッションを行った。参加者からは、今の時代に合った構造デザインとは、また、構造設計とコンピュテーショナルデザインの関係性などについて質問があった。パネルディスカッションの後に、関連企画として11月2日(水)~ 9日(水)に建築博物館ギャラリーで開催された「アーキニアリング・デザイン展」に移動し、展示物である模型やパネルを用いて、講演者が解説と質疑応答を行った。模型を用いた説明により講演者を囲んで活発な質疑・意見交換が交わされた。模型を前に説明を聞くことで、より講演内容が理解しやすくなり、学生から実務者まで多くの方々に興味をもっていただき、闊達なディスカッションができた。

講演者によるAND展模型の解説

[山我信秀/関東支部構造専門研究委員会設計WG主査]

シェアする
LINE

関連イベント