鹿児島麓散歩

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鹿児島麓散歩

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 日本の原風景の一つに、山裾に田畑が広がり、鎮守の杜や屋敷林の樹木の合間に茅葺きや瓦葺きの屋根が見え隠れする美しい景観があります。一般的には、それらを麓の風景と呼びますが、鹿児島の「麓」は、近世の薩摩藩が治めた集落を「麓」と呼び、旧薩摩藩の領内に、武士を集住させた約125ヵ所の「麓集落」がありました。鹿児島県内に約100ヵ所、宮崎県下にも20ヵ所を越える「麓集落」があったと考えられており、国境の麓は防衛の役目を担い、河川や街道にも「麓集落」が配されたため、「薩摩は城を造らず、人をもって石垣となす」とも言われてきました。そして、これらの「麓集落」では、熊本以北の街並みとは異なる、風土に根ざした美しい景観が培われてきました。「麓集落」は、石垣と生垣、武家門、井水や用水路、平屋の住宅群が並び、明治、大正、昭和の各時代に継承、更新されながら鹿児島の地域の経済や文化を担ってきましたが、過疎化や高齢化の中で長年培われたそれらの景観が失われようとしています。
 今回は、その「麓集落」のなかでも薩摩半島の集落を散策し、国の重要伝統的建造物群保存地区として1981年に選定され、すでに40年以上経過した知覧麓と、2019 年に選定された南さつま市加世田麓を中心に巡るバスツアーを行います。また、東シナ海に面した秋目麓等も巡り、麓集落の魅力と鹿児島の自然を体験いただきたいと思います。

開催概要

主 催 日本建築学会九州支部鹿児島支所
日 時 10月22日(土)8:30~17:30
見学先 知覧麓、川辺温泉、秋目麓、加世田麓ほか
集合場所 天文館もしくは鹿児島中央駅 8:30集合
解説者 鯵坂 徹(鹿児島大学教授)
対 象 どなたでもご参加ください。
定 員 50名(申込先着順)
参加費 無料
申込方法 E-mailまたはFAXにて、「氏名、所属先、年齢、住所、連絡先(TEL、E-mail)」を明記のうえ、お申込みください。
申込先・問合せ 鹿児島大学 横須賀洋平
〒890-0065 鹿児島市郡元1丁目21-40
E-mail:yokosuka@aae.kagoshima-u.ac.jp FAX:099-285-8301

開催レポート

九州支部では鹿児島支所が担当し、10月22日(土)に「鹿児島麓散歩」と題して、知覧麓、秋目麓、加世田麓等を巡り、麓集落の魅力や鹿児島の自然を体験する企画を行った。バスで鹿児島県内の南薩に位置する麓を巡り、見学先では麓の街並みや住宅を訪問し、麓集落の建造物の特徴について講師の鰺坂徹氏(鹿児島大学教授)が解説した。バスの中では、鰺坂氏から「ふもとまちあるきマップ2022」の麓巡りのパンフレットが配付され、鹿児島の麓にまつわる歴史について解説が行われた。鹿児島県外の東京や福岡等から、本会会員外の方も含めて6名の参加があった。知覧麓は、昭和56年(1981)に国の重要伝統的建造物群保存地区に選定された麓らしい美しい街路の景観や知覧型二ツ家の特徴をもつ住宅建築が残されており、来場者はこれらを見学することができる。また、庭園入場の整備が行き届いている事の説明がなされた。

鰺坂氏の解説(参加者 本田氏の撮影)

秋目麓は、薩摩半島の西南橋に位置しており、東シナ海に面し、鑑真和上が上陸した土地である。岩元邸、坂本邸、宮内邸が残されており、これらの住宅内部をNPO法人がんじん・里づくり秋目ネットの方に案内していただき、かつての繁栄の様子が窺えた。街並みは、石垣や植生、道路形状が残されており、かつての面影を感じられる麓であった。
加世田麓は、薩摩半島の南西部に位置し、2019年に国の重要伝統的建造物群保存地区に選定された。加世田は別府城が築城され、かつて別府氏が治めていたが、室町時代以降は島津氏が治めていた。近代では南薩鉄道(廃線)や街道の拠点として栄えた。近代和風の住宅や洋風医院建築まで、多様な建築群が残されている。旧鰺坂邸、旧鰺坂正一郎邸、直接鰺坂氏が整備している旧猪鹿倉邸等の住宅を訪問し、見学を行った。伝建地区に選定されてから比較的新しく、一般の方が来場し見学する事が困難な建築もあるが、現代の生活と密接に関わった麓らしい町並みが残されている。
麓集落の残され方に触れて、知覧は既に観光地として整備されており、加世田は住民の生活と結びつきながら保存されていくことが感じられた。一方で、秋目麓は、映画「007は二度死ぬ」のロケ地として、かつての街並みの風景が映像に記録されているが、現在は人口減少による廃屋や家屋の解体跡の様子がみられ、保存活動の必要性が感じられた。
そのほか、焼酎工場「杜氏の里笠沙」や鑑真記念館に訪れ、鹿児島の歴史や文化、自然に触れる機会を得た。道中に立ち寄り見学した川辺温泉の建築物は、巨大な自然木を積み上げた圧倒されるような建築物であった。鹿児島麓散歩の参加者の皆様から後日メールをいただき、満足度の高い感想を聞くことが出来た。

[横須賀洋平/日本建築学会九州支部鹿児島支所]

集合写真

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