開催レポート
石川県金沢市で建築設計に取り組まれ、地域再生・活性化に貢献している谷重義行氏(谷重義行建築像景)に「場所をかたちづくる」をテーマにご講演いただいた。内容をより掘り下げて議論するため、指定討論者として青木一実氏(atelier-fos)、清水俊貴氏(福井工業大学准教授)が担当し、企画および司会進行は藤田大輔(福井工業大学教授)が務めた。
講演
設計者自身が手を入れる重要性として、自邸(北袋の家)での生活を紹介し、見える範囲で敷地外の草刈りを実施するなど、手を加えて風景を整える姿を説明した。また、庭から出る枝を薪の材料にしたり、周辺のススキを雪囲いに使用するなど、自宅のまわりで出るものを活用している。大工工事、家具、左官、塗装、造園、屋上緑化、薪割、衛生器具の設置などは、設計者および住み手である自身で行なっていることも紹介された。HORITA205(カフェレストラン)では、植樹して樹木の生長を待つとともに、冷蔵庫の小屋は、内部からツタが這うように配慮して良い雰囲気づくりを心掛けている。植え込みにジューンベリー(赤い実)、キンシバイ(黄色い花)を選択するなど、樹形や花の特徴を理解しながら設計している。緑化木センター(森林組合事務所)では、内部にも樹木を植えるとともに、樹木を登って屋根面に上がって遊べるように計画している。
建築形態の整え方についても言及があった。例えば、里山の家では、シンメトリーである扇形から少し変形させて整えた結果、平面が2つの焦点をつくり、 地形変化に合った形が生じ、風景が微妙に調整可能になった。本宮保育園では集成材を使わず切り出した木を使用しており、遊戯室は二段梁で、柱を斜めにすることでスパンを稼いでいる。
里山の家で約100本使用している柱形態を「丸柱」とした理由としては、四角い柱では角度がある接合部の扱いが難しいことを挙げている。本宮保育園では、木材は自然乾燥の能登材を使用し、たたき土間は珪藻土をつかうなど自然素材をふんだんに使用している。
最後に、書籍に書かれた言説について紹介があり、ノーマン・F・カーヴァJr『日本建築の形と空間』では秩序(オーダー)についての感覚や形と空間、ヨーラン・シルツ『アルヴァ・アアルト エッセイとスケッチ』では「合理性の解釈」などを取り上げ、書籍の内容を建築的にどう作っていくかが課題であると説明した。
質疑応答
話題提供後、指定討論者を中心に質疑応答があり、谷重氏の考えを探った。いくつか紹介する。
・風景(まわりの状況・環境)については、敷地で四方を見渡した時に見て気持ちが良いもの、見たくないものを選別していくことが基本となる。そのうえで、設計でどう取り組むか、建物のあり方自体が地域にとってどうあるべきかを考える。自分で壊せない場合は、配慮する。特徴がない
・手がかりがない場合は、その場所を通った時に刺激を与えていくようなスタンスをとる場合もある。与えられた敷地をどう感じ、設計していくかが重要である。
・設計では現場で調整することが必須である。図面や模型では限界がある。現場に赴き、今の設計では合わないのでは?と考えて変えていく。明確な手法があるわけでもないが、このまま柱がたったらどうなるか、外壁の構成はこれで良いのかなどを考えて変えていく。施工上の問題や、施主がひらめいたアイデアなど、工事中にも更新される。それを手掛かりにすると次の展開が見えてくる。
・設計では模型をかなりたくさんつくる。スタディして方向性をみつけるため、1/1スケールの模型をつくることもある。グリッドは割と直感的に決めるが、その後のスタディは長い。この敷地に建つと良い建物については、早い段階でイメージしている。
・掃除、庭仕事など手を入れることで見えるものについては、HORITA205において完成後2年くらい庭を整備してきたことを取り上げた。素敵な庭があるカフェにお客さんがたくさん入り評判が上がると、施主も「お金を出してでも整備する」意識が生まれてきた。奉仕精神も大事だと思うが、自分がつくりたいものを実現したいという思いが強い。作業が楽しいし、環境が成長していく。
最後に聴講している学生に対して、「建築するとは、形をつくり空間をつくることで、体験している空間、生きた空間をつくるために、建築のあり方を勉強して欲しい。自分の場合は、いくつかの本をベースに建築を考えている」とアドバイスをいただいた。さまざまな事例を解説いただきながら、指定討論者によりその真意を探った良い講演会となった。
[藤田大輔/福井工業大学教授]