大山町所子重要伝統的建造物群保存地区のこれまでとこれから

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大山町所子重要伝統的建造物群保存地区のこれまでとこれから

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大山町所子はわが国の重要伝統的建造物群保存地区(以下、重伝建地区)の中で数少ない「農村集落」の一つです。大山町所子は2013年12月の重伝建地区指定後、今年でちょうど10年の節目を迎えます。大山町所子の指定後の10年の歩みとこれからの歩みを地元住民とともに考えます。

開催概要

主催 日本建築学会中国支部
後援 大山町、所子町並み保存会
講演者 2023年10月15日(日)13:30~16:30(少雨決行)
(見学会:13:30~14:30/シンポジウム:14:40~16:30)
見学先および会場 大山町所子伝統的建造物群保存地区、大山の里所子(旧所子保育園)
集合場所 大山の里所子(旧所子保育園)(鳥取県西伯郡大山町所子218)
※同駐車場にて13時より受付を開始します。
解説者(見学会) 地元ボランティアガイド(予定)
講演者(シンポジウム) 和田嘉宥(米子工業高等専門学校名誉教授)
牛島 朗(山口大学准教授)
大山町所子地区住民代表
挨拶(シンポジウム) 篠部 裕(呉工業高等専門学校教授)
所子町並み保存会
司会(シンポジウム) 浅井秀子(鳥取大学准教授)
対象 どなたでもご参加ください。
定員 30名(申込先着順)
参加費 無料
申込方法 中国支部Webサイトの専用フォームからお申し込みください。
https://chugoku.aij.or.jp/
問合せ 日本建築学会中国支部 E-mail:chugoku@aij.or.jp

開催レポート

 2023年度の中国支部の建築文化週間事業「大山町所子重要伝統的建造物群保存地区のこれまでとこれから」が、10月15日(日)13:30~16:45に鳥取県大山町所子で開催された。
 大山町所子はわが国の重要伝統的建造物群保存地区(以下、重伝建地区)の中で数少ない「農村集落」の一つである。大山町所子は2013年12月27日の重伝建地区指定後、今年でちょうど10年の節目を迎える。これに合わせて、「大山町所子の指定後のこれまでとこれからを地元住民とともに考える」という趣旨で今回の見学会とシンポジウムを企画した。見学会の参加者は32名、シンポジウムの参加者は43名であった。
 所子集落は「カミ」「シモ」二つの家屋群から構成される点が特徴の一つとされる。見学会では参加者は2班に分かれ、所子町並み保存会のボランティアガイドと大山町職員による説明を聴きながら、所子集落を約1時間かけて見学した。中国地方5県から集まった参加者は、それぞれ関心に応じて思い思いの写真を撮影した。
 シンポジウムでは、最初に和田嘉宥氏(米子工業高等専門学校名誉教授)に「所子地区の概要とこれまでの歩み」をご講演いただいた。所子の特徴として、①「神さんの通り道」と称される帯状の空間を挟んだ2つの家屋群(カミ・シモ)からの構成、②田畑や農家敷地周辺を縦横にめぐる水路と家屋群が一体化した景観、などが挙げられた。また、これらの家屋群には、国重要文化財の門脇家住宅、国登録有形文化財の東門脇家住宅や美甘家住宅、県指定文化財の南門脇家住宅が含まれ、伯耆地方の住宅の間取り(二列型・三列型)の特徴を説明いただいた。
 続いて、牛島朗氏(山口大学大学院准教授)には、他の重伝建地区の事例紹介をしていただいた。廿日市市宮島町(門前町)、八女市八女福島(商家町)、東近江市五個荘金堂(農村集落)、焼津市花沢(山村集落)の重伝建地区としての取り組みの現状が説明された。大山町所子は農村集落として指定された極めて希少な重伝建地区であり、①家屋・田畑・水路などの多様な景観資源の総合的な活用、②周辺施設・環境資源と多様なアクティビティとの連動、③建築物保全の見える化(建物が生き返るプロセスの可視化)などが助言された。

見学会の様子(町並み見学)
見学会の様子(門脇家住宅)

また、門脇由己氏(所子町並み保存会会長)からは、地元住民を代表して、所子の魅力と現在抱える問題点や課題を紹介いただいた。外部の有識者からは、所子の特徴として、①農村の魅力が凝縮された景観、②見るだけでなく音でも感じることができる水路、③大山と日本海の間に位置する信仰の空間としての立地性、などが評価されていることが紹介された。しかしその一方で住民の立場からは、①住宅の整備基準の厳しさ(不自由さ)、②所子の特徴である水路と自動車利用の両者に配慮した道路整備の難しさ、③補助金はあるものの住宅の修繕や修景に掛かる費用負担などが挙げられた。また、門脇氏の講演の結びには、門脇氏と地元住民による「所子音頭」も歌われ、所子住民の郷土愛を感じることができた。3氏の講演後、鳥取大学浅井研究室の学生が、大山町所子と鳥取県若桜町若桜の集落を対象に行った「洗い場」の実測調査の結果を報告した。最後にシンポジウムの参加者を交えて、所子のこれまでとこれからについて意見交換した。会場からは、所子が重伝建地区として目指す方向性は何か、農村における住民の生業や生活の持続と町並み整備の関係性、観光化への対応の是非などについて意見が出された。
 重伝建地区の共通課題としては、住宅や町並みの整備ルールと住民の生活とのすり合わせが普遍的な課題として挙げられるが、これからも地元住民・行政と専門家(第三者、ヨソモノ)が対話を重ね、所子らしさを次世代に継承して行くことが大きなテーマと言える。
 シンポジウムは、2時間と限られた時間であったが、重伝建地区指定後の10年の歩みを振返り、今後の所子集落のあり方を考える上で有意義な内容であった。ご講演いただいた和田先生、牛島先生、門脇会長ならびにご後援いただいた大山町と所子町並み保存会の皆様に改めて感謝申し上げる。

[篠部裕/呉工業高等専門学校教授]

シンポジウムの様子

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