太田市美術館・図書館

見学会

レポート

シリーズ名作をみる

太田市美術館・図書館

シェアする
LINE

太田市美術館・図書館は、平田晃久氏の設計による、2022年日本建築学会賞(作品)を受賞した群馬県太田駅前に建つ文化交流施設です。駅前に賑わいを取り戻すことを目的に、人々が気軽に立ち寄り、まちが内部まで連続しているような建築が目指されました。
駅前広場から取り込まれた空間のゆったりとした流れは、展示室や閲覧室を巡って屋外や屋根の頂部に至り、付近の古墳や、街並みと呼応します。
建物全体が美術館と図書館、イベントスペースに変容する感覚をぜひ実物で体験していただきたいと思います。

Photo: Daici Ano

開催概要

主催 日本建築学会関東支部
日時 2023年10月3日(火)13:30~15:30
見学先 太田市美術館・図書館(群馬県太田市東本町16番地30)
対象 どなたでもご参加ください。
定員 40名(申込先着順)
参加費 無料
申込方法 日本建築学会Webサイト「催し物・公募」欄よりお申し込みください。
問合せ 日本建築学会関東支部
TEL:03-3456-2050 E-mail:kanto@aij.or.jp

開催レポート

 10月3日(火)、26名の参加を得て見学会が開催された。太田市美術館は、平田晃久氏の設計により2017年に竣工し、2018年村野藤吾賞、BCS賞を、2022年には日本建築学会賞(作品)を受賞した名作である。当日は平田建築設計事務所で実際に設計を担当された、外木裕子氏と松田彩加氏から、プロポーザル時の案やその後の基本設計時、市民や行政担当者、図書館や美術館のスペシャリストとのワークショップにより建築を深化させていった過程を、建物3階の視聴覚室をお借りして説明いただいた。

 説明によると、この建物が建設される前の太田市駅前の商店街は、人通りも少なく閑散としており、駅前に賑わいを取り戻すことがこの文化施設の建設目的の一つだったという。かつてこの街にあった中島飛行機の翼やプロペラのイメージをヒントにした複数の動線が絡み合う建物イメージ、敷地の東方にある、前方後円墳、天神山古墳や北方の金山(かなやま)など、複数の丘が点在する地域の風景に応答して、「現代の丘を作る」という発想からプロポーザル案は創られたという。その後、基本設計時に、建物の特徴である閲覧室や展示室などのコンクリートボックスの数や配置、それらの間を縫いながら各所をつなぐ、二重螺旋のスロープによる流動的な動線もこのワークショップを通して決定されていったという。この間に検討された、まさに山のように積まれた模型の写真が映し出された時の驚きと感動は今回の見学者の共通の思いだったに相違ない。最終的に決まったボックスの配置や大きさ、それらを取り巻く動線となる空間の繋がりは、更地となった実際の敷地に現寸で描かれた。ワークショップ関係者と共有した理想や活動イメージを確認する為であった。人々が自由に立ち寄れる駅前広場との連続性、RC造の「ボックス」とその周囲の鉄骨造の「リム」による全体構成はプロポーザル当初からのものであるが、平・断面に関わる大きな要素は、このワークショップの透明性の高いコミュニケーションにより決定されていったことが理解できた。プレゼン後、2班に分かれて建物内外を見学させていただいた。

 駅前広場から取り込まれた空間の流れはさまざまなスペースと一体化して巡る。途中、外部のテラスやスロープが顔を出し、屋外から段上に緑化された屋上へと至る。見学過程で別の班に何回か偶然に出会ったのは、内外の空間や動線が複雑に絡み合っていることに起因している。コンクリートボックスの間の鉄骨造のリム空間は、ボックスの間の距離が場所ごとに異なる為、鉄骨のウェブやフランジの厚みを変えて同じ梁成で統一されていた。下フランジに床デッキを載せることで、構造体現しのスケルトンでシンプルな空間で統一されている。空調は床デッキと床仕上の空間を利用した床吹き出し空調で、ダクトを見せることなく納められている。床から吹き出された空気や外壁の可動サッシュから採り入れられた外気は、リム空間の重なりを縫うように設けられた吹抜空間により、建物全体へと行きわたるよう工夫されている。また、この吹抜を通して左右上下に行き交う人や活動が見え隠れし、まるで街歩きのなかの流動的スペースが連続する風景のように感じられた。
 見学中や見学後に、実際に設計された方々の苦労された点、工夫された点を直接お聞きできたのは、またとない機会で、参加した多くの方からも高評価をいただいた。平田氏をはじめ見学会開催にご協力いただいたすべての方々に感謝申し上げたい。
 見学会を終え、駅前から建物を見上げたとき、設計者の方々が語ったように、いくつもの緑の丘が積層する花のような建築だと思った。

[竹内雅彦/清水建設、事業企画運営委員会委員長]

シェアする
LINE

関連イベント