野外博物館の価値 そしてこれから

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講演会・見学会/北海道開拓の村開村40周年

野外博物館の価値 そしてこれから

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開村から40周年となる野外博物館「北海道開拓の村」において、講演会と見学会を通して、野外博物館が持つ価値について改めて振り返り、また、これからの野外博物館のあり方について考えます。

開催概要

主催 日本建築学会北海道支部
協力 北海道歴史文化財団
日時 2023年10月14日(土)13:00~16:00
(講演会:13:00~14:50/見学会:15:00~16:00)
会場および見学先 野外博物館 北海道開拓の村(北海道札幌市厚別区厚別町小野幌50-1)
※現地集合
講演者(講演会) 中川 武(博物館明治村館長/早稲田大学名誉教授)
中島宏一(北海道開拓の村館長)
解説者(見学会) 日本建築学会北海道支部歴史意匠専門委員会委員
対象 どなたでもご参加ください。
定員 30名(申込先着順)
参加費 無料
申込方法 10月6日(金)までに、ハガキまたはE-mailにて「氏名、年齢、所属先、住所、電話番号」を明記のうえ、お申し込みください。
申込先・問合せ 室蘭工業大学 創造工学科 武田研究室
〒050-8585 北海道室蘭市水元町27-1 Y棟
TEL:0143-46-5252 E-mail:atake1@mmm.muroran-it.ac.jp

開催レポート

 日本建築学会北海道支部歴史意匠専門委員会が中心となって、札幌市に所在する野外博物館北海道開拓の村において、講演会および見学会を実施した。
 北海道開拓の村(以下、開拓の村)は、昭和58(1983)年に開村した、国内でも有数の大規模な野外博物館である。ここには、開拓当時の生活を体感的に理解してもらうことと、文化の流れを示す建造物を保存し、後世に永く伝えることを目的に、明治から昭和初期にかけて北海道内で建築された建造物が移築復原もしくは再現されており、その数は52棟にも及ぶ。また、村内には、市街地群・漁村群・農村群・山村群の4つのエリアが設けられ、明治から大正期頃の北海道におけるさまざまな景観の再現を目指し、それぞれの建造物が配置されている点に特徴がある。平成25(2013)年には、旧開拓使工業局庁舎が国指定重要文化財に指定されるなど、その歴史的価値の評価も進められてきた。
 令和5(2023)年は、開拓の村が開村してから40周年にあたる年であった。そのような節目に、改めて野外博物館が持つ価値について考える機会を設けること、また近年改修工事が行われた建造物を事例に、歴史的建造物の維持管理に関する知見を提供すること、そしてそれらを通じて野外博物館のこれからのあり方について考える場を与えることを目的に、歴史的建造物の保存・活用に関する普及活動として講演会および見学会を開催することとした。開催日は、令和5(2023)年10月14日(土)で、一般参加者は24名であった。

講演会の様子
写真撮影:鈴木明世

 講演会では、博物館明治村(以下、明治村)の館長であり早稲田大学名誉教授の中川武氏と開拓の村の館長である中島宏一氏が登壇し、それぞれ建築史学的な立場と野外博物館の管理運営の立場から、野外博物館の持つ価値についてご講演いただいた。
 中川氏からは、まず明治村の建造物を事例にそれらが持つ「明治」という時代的特徴について紹介された。そうした特徴を持つ歴史的建造物は、本来その地域・周辺環境とともにつくり上げられたため、元の場所で残すのが最も良かったとしながら、明治村ではできるだけ元の地形・環境も意識して移築してきた経緯を述べた。「実物」が残ることによって、図面や資料では決して分からない「空間」を体験することが可能になり、身体的にその建造物の本質を感じることができる。そこに野外博物館が多くの建造物を後世に伝えることの意義があるとまとめた。
 中島氏からは、札幌オリンピック開催に向けてまちなみが大きく変わっていくなか、開拓の村建設計画が始まったという時代的背景の説明から、建築と生活文化を体験できるような、景観の再現の意図や個別の建造物の展示手法など、開拓の村の建設当初からの理念について紹介された。また、明治から大正期の北海道開拓の時代の建造物を集めることで、複数の建造物の比較を可能にし、その類似や差異が北海道らしい建築の特徴を浮かび上がらせること、それをいかにして来村者に伝えるかの展示・案内の手法について運営側の視点から説明された。
 両者の講演は、話題とする内容は異なるが、歴史的価値を持つ数多くの「実物」を、同じ場所に残すことによる資料的・体感的価値の提供が、野外博物館のひとつの意義であると見出せるものであった。講演後に、建造物を残していく以外にこれからの野外博物館が考えるべきことは、との質問が挙がった。中川氏は、明治村と開拓の村の建造物に見られる地域性や時代的背景の違いを取り上げ、他館との相互交流のなかでそれぞれの事例を学ぶことで、相乗的に自館の特性を理解することができる、つまり、野外博物館同士のネットワークづくりを進めることで、より深い価値の提供につながっていく可能性を示した。
 見学会では、北海道支部歴史意匠専門委員会の鈴木明世委員が解説者となり、令和4(2022)年度に大規模改修工事を実施した、開拓の村内の旧小樽新聞社及び旧近藤染舗について、自身の職務の中で改修工事に携わった経験をもとに、その改修事例について説明した。北海道による発注という行政主体の工事になるため、異動を経て担当者が変わっても引き継ぎ可能な、歴史的建造物の改修の考え方の基本原則を定めたこと、それに則り改修箇所・方法の検討を行ったこと、北海道内の職人・材料で実現することを目指した持続的な改修工事のための試みなどを紹介した。

[鈴木明世/北海道博物館]

見学会の様子
写真撮影:金子晋也

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