とやまたてもの探偵団2023
富山の若手建築家の自邸を巡る
コロナ禍以降、若者を中心に地方移住への関心が高まりました。では、現代において地方で暮らすとはどういうことなのでしょうか。本見学会では、富山において自ら設計した自邸に住まう3名の若手建築家の自邸を巡り、その建築空間の体験と設計者による設計意図の解説を通して、地方や富山に暮らすことと住宅建築について考えます。
Photo: Daisuke Shima(中央写真)、池田ひらく(右写真)
主催 | 日本建築学会北陸支部富山支所 |
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日時 | 2023年10月7日(土)9:00~15:20 |
見学先 | ①Re-plot of townscape、②山川藪文庫、③花水木ノ庭 |
集合場所 | 高岡駅(富山県高岡市下関町6-1) |
解説者 | ①藤井和弥(富山工業高等学校建築工学科長) ②籔谷祐介(富山大学講師) ③沼 俊之(dot studio代表) |
対象 | どなたでもご参加ください。(小学生以下は保護者同伴) |
定員 | 15名(申込先着順) |
参加費 | 2,000円(昼食代、バス代、保険代含む) |
申込方法 | 9月22日(金)までに電話もしくはE-mailにて、「氏名、所属先、連絡先(TEL、FAX、E-mail)」を明記のうえ、お申し込みください。 |
申込先・問合せ | 富山大学 芸術文化学部 籔谷祐介 TEL:0766-25-9200 E-mail:yabutani@tad.u-toyama.ac.jp |
本企画は、富山において自ら設計した自邸に住まう3名の若手建築家の自邸を巡り、その建築空間の体験と設計者による設計意図の解説を通して、地方や富山に暮らすことと住宅建築について考えるものである。10月7日(土)に開催した。参加者は、学生、実務者、大学教員など計12名であり、大阪、福井など県外からの参加者も見られた。今回、見学した住宅は、①Re-plot of townscape、②山川藪文庫、③花水木ノ庭の3プロジェクトであり、高岡駅に集合しバスで巡った。それぞれ紹介していく。
①Re-plot of townscape(設計|藤井和弥、横山天心)
高岡市内にある設計者夫妻と二人の子どものための住宅である。周辺は町家が建ち並び、細長い形状の敷地が並ぶ。その一画にあるこの住宅は、2つの道路に挟まれた細長い敷地を長手方向に三分割し、その真ん中に町家のような主屋を配置することで、「街のヴォイド」と呼ぶ細長い空地を建物の両端に生み出した。それらの空地はロジニワとロジドマと呼ばれ、暮らしの拡張を受容する。時にはまちと住宅をつなぎ、時にはゆるやかに仕切る空間として機能しているのが興味深い。主屋は、特徴的な断面計画により、多様なヒューマンスケールの居場所が立体的に生まれている。この日は多くの見学者がいたことにより、それらの居場所が顕在化され、さらに居場所同士の関係性の豊かさも体験することができた。ロジニワに対しては非常に開放的であり、自分たちの暮らしがまちの風景をつくるのだという設計者の強い意思表明を感じる。地方都市に歯抜け状態で生まれる空き地が、生活や町並みを豊かなものにする新たな可能性を示した興味深いプロジェクトであった。
②山川藪文庫(設計|富山大学籔谷研究室)
氷見市の中山間地域に建つ築40年の住宅を改修したもので、筆者の自邸である。富山県の住宅は日本一規模が大きい。それは冠婚葬祭を自宅で行う風習や三世代同居によって支え合う生活様式が影響している。しかし、現代においては生活様式や家族の形態が変化し、それらと生活の器としての住宅との間にギャップが生じている。そこで、部分的に残しながら減らす「半減築」という手法を用いることで、現代のライフスタイルに合うように規模を調整しつつ、それにより生まれた半外部空間によって地域に存在する人、もの、できごとやそれらから生まれる風景と多様な関係性を築けるよう建築を再構築した。また、「学び」を最大化することを追求し、職人に指導を受けながら、できる限り自主施工を行い、施工知識・技術を修得した。そうした知識と技術の地域内への蓄積は、今後、移住者を受け入れる際に役立つものであると考えている。さらに、この地域は下水道が整備されていない地域であるため、コンポストトイレや傾斜土槽法という排水浄化システムを採用した。これらの実験的試みが、今後この地域への移住希望者のレファレンスとなり、この集落の風景を守り続けることにつながることを願っている。
③花水木ノ庭(設計|dot studio一級建築士事務所)
富山市の中心市街地にも近い花水木通りという個性的な店舗が建ち並ぶ通りに建つ建物である。細長い敷地に対し、設計者の自邸に加え、両親の住戸、単身者向け賃貸2住戸、店舗、共用フリースペースが長屋形式で構成されている。駐車場を前面道路側に設けず中に組み入れることで通りに対しファサードを構成し、花水木通りの街並みに積極的に参加している。一部半屋外となっている敷地内通路は車が通るため心地よいスケールでできている。そこには店舗やフリースペースも面しており、それらの什器はすべて可動式で、さまざまなアクティビティや出来事の受け皿となる許容力がある。実際に、ここではさまざまなイベントが開催されており、この通りの新たな文化発信の拠点となっている。間口が狭く奥行きの長い敷地が連続するこのエリアにおいてヴォイドと開口の取り方はひとつの主題となる。ここでは完全に敷地内で閉じてしまうのではなく、丁寧に周辺との関係を読み取りながら立体的に空間の拡張性を担保し、光、風、視線の流れを周辺環境とともに生み出している。ファサードもそうであったが、そうしたまちのコンテクストを引き受け、積極的に参加することで、まちの魅力を顕在化させているところが面白かった。
以上のように、本企画では地域特性の異なる敷地に建つ3つのプロジェクトを見学した。どれも地方の都市や集落に対する新たな可能性を示唆するものであったのではないだろうか。また、少人数の企画であったため、参加者同士の多様な交流も見られた。ちなみに昼食は、氷見のブルーベリー農家がされているCafé風楽里でいただいたのだが、参加者からも大好評であった。最後に、本企画にご理解とご協力を下さいました藤井和弥氏、dot studio の沼俊之氏に心より感謝申し上げます。
[籔谷祐介/富山大学講師]